「お前の身勝手な行動で王女殿下が裏切り者だと世間から後ろ指を指される事になるやもしれないのだぞ、何故笑っていられる」
「まぁ、それは確かに申し訳無いとは思う」
「申し訳無い? ただそれだけか!」

 イリオーデがカイルの胸ぐらを掴む。それにはさしものカイルも少し驚いたような顔をした。
 しかしそのイリオーデの言動を、

「イリオーデ卿!」

 焦るハイラが割って入って止めて、

「どれ程憎かろうと相手は他国の王族です! 危害を加えてしまっては姫様の立場が悪くなるだけです!!」
「…………っ!」

 カイルからイリオーデを引き剥がした。引き剥がされたイリオーデは悔しげに俯く。
 そう。瞬間転移を用いて不法入国しているとは言え、カイルがハミルディーヒ王国の第四王子である事実は変わらない。
 もしカイルが帝国で危害を加えられたりすれば、それが切っ掛けで戦争が起こるやもしれないし、そうでなくともイリオーデを従えるアミレスに責任が問われその立場が悪くなる事だろう。
 それを理解して、イリオーデも嫌々カイルから手を離したのだ。

「……あー、俺、未来予知出来るんだよ」

 場の空気を感じ取り、カイルはようやく神妙な面持ちを作り口を開いた。
 その突拍子の無い発言に、誰も彼もがゴミを見るような目でカイルを見る中、

「ある程度先の未来がたまにぼやーっと見えるんだよね。実はそこでたまたまアイツが考えた暗号を見たから、それを使って手紙送ってみたんだ。そしたら、将来自分が考える事になる暗号だからかアイツも分かったみたいで……それからというもの世間話をする友達になったって訳」

 カイルはその場ででっち上げた嘘八百を躊躇いも無く口にした。
 そう、全くの嘘である。どうすればこのアミレスに執着している奴等を納得させられるか、と考えた末にカイルが導き出した答え(うそ)である。