「隷従の首輪がやっぱり一番の問題なのよね……あれがある限りその男爵には逆らえないみたいだし」
「ですがあの首輪は一種の覆せない奴隷契約のようなもので……主人側が契約を破棄しなければ鍵があろうとも外せなかった筈です。破壊も、魔導具の性質上難しいでしょう」
「やはり例の男爵とやらを引きずり出す必要がありそうだな」
「それもだけどぉ、その犯人、今日このまま帰ったらまた罰を受けるんじゃあないの? だって誰も殺せてないんだから」
「ならば今から適当な死体を見繕うか? 気が乗らんじゃろう」
「死体役は……まァ、最悪俺がやれるが……果たして意味があるかどうかは分かんねーわ」

 深夜だと言うのに皆で精力的に話し合う。次々に自身の意見を口にするこの光景を、カイルは不思議そうに眺めていた。
 暫く、うーん……と思い悩む様子であったカイルが、「アミレス」と私を呼ぶ。

「そのアルベルト……に嵌められた首輪って魔導具なんだよな?」
「えぇ、まぁそうね」
「じゃあ俺、クラッキング出来るかも。魔導具なら俺の専門分野だし」
「そうか……貴方そう言えばそうだったわね! じゃあ任せてもいい?」
「りょ、俺とサベイランスちゃんに任せろぉ」

 緩い言葉でカイルはこれを請け負い、サベイランスちゃんと共に魔導具のクラッキングに挑んでいる。
 流石はチートオブチート……頼りになるわね。とカイルの背中を眺めていると、「あ、そうだ」と振り向いたカイルと目が合った。

「そのアルベルトがこのまま帰ったら怒られるーって方は適当に捏造したら何とかなると思うぜ。どっかの新聞社でも脅して嘘の記事書かせるとかさー」

 この時私達は思った。そうか、その手があったか! と。
 カイルの意見を積極採用し、私達はシャンパー商会に頼み込んで号外を偽の事件情報で埋め尽くす計画を立てた。ハイラが交渉の方を担ってくれるので、重要な紙面の方を私達は考える。
 これまでの被害者達を報せる紙面を参考に皆で原稿を考え、最後にそれをハイラに渡した。後はカイルのクラッキングが済めば……とくるりと彼の方を向くと。
 いつの間にかカイルがアルベルトにかけていた絶対捕縛魔法を解除して、アルベルトから短剣《ナイフ》とトランプを受け取っていた。

「ちょっ……あんた何勝手に?!」
「そう心配なさんなや、鎖は消えたけど変わらず魔法は使えないままだから。ほら、事件と新聞を捏造するなら血の着いた凶器と相手の毛髪の一つでも必要だろ? だから俺の髪と血をやろうと思って」

 彼めちゃくちゃ強いのよ?! と焦る私に向けカイルはニコーっと笑い、自分の腕に短剣《ナイフ》をグサリと刺した。

「よし、これで血の方は大丈夫っしょ。後はわざとらしく袖の辺りに俺の赤髪つけときゃ男爵にもバレねぇだろ」

 屁でもない様子で短剣《ナイフ》を抜き、アルベルトに手渡すカイル。更にはアルベルトの服の袖に抜いたばかりの赤髪をつけた。