(((カイル・ディ・ハミル──ッ!?)))

 何故ならその名は、アミレスと謎の暗号でやり取りをする敵国(ハミルディーヒ)の王子の名前だったから。
 彼等の愛するアミレスを、裏切り者にしかねない危険な行為を冒した存在。とどのつまり──彼等にとっての、敵である。
 アミレスに必死に止められていなければこの場で殺していたかもしれない。そんな風に本人達が思う程、その怒りと嫌悪は強く燃え盛っていた。
 そりゃあ、自己紹介なんてしたくないよね。アミレスが紹介したのだからと仕方なく嫌々名乗ったイリオーデとマクベスタ、そして結局名乗らなかったエンヴィー。
 彼等はアミレスに『反抗期かしら?』なんて風に解釈されている事を知らない。
 アミレスを思うあまりカイルを毛嫌いする者達の気持ちを、当のアミレスは全く気づかないのであった。


♢♢


「おし、じゃあ行くぞーアミレス」

 カイルの方も準備が出来たようで、全員アルベルトの周りに集まるよう指示してきた。三人共、カイルの言葉に従おうとしなかったので私からもカイルの言う通りにするよう呼びかけ、皆で固まる。
 イリオーデ達が怪訝な目でカイルを見ている中、そんな緊張もものともせずカイルは「いくぜ、サベイランスちゃん」と言ってサベイランスちゃんを起動した。

《星間探索型魔導監視装置、仮想起動。システムコード簡略、魔導変換開始》

 突然光り変形したカイルの箱に、誰もが目を奪われる。そこから聞こえて来る無機質な音声に、誰もが耳を疑った。

《事前指定、目次参照……完了。転移術式構成、完了。転移対象、指定完了。座標指定、座標固定、完了。目的地、フォーロイト帝国東宮内──転移術式発動》

 サベイランスちゃんのアナウンスが終わると同時に、足元に空間魔法の魔法陣が出現し、私達はその光に包まれた。
 次に視界が元通りになった時には、私達は全員、見慣れた東宮の廊下にいた。