「……つまり、王女殿下はその男の望みを叶えてから罰を与えたいのですね?」
「そうっ、そうなのよ! 流石はイリオーデ、よく分かってくれたわね!」
「っ! 王女殿下の騎士として当然の事です」

 考えをまとめたイリオーデがズバリ私の思惑を言い当てたので、私は期待通りの喜びから何度も頷いた。
 心無しかイリオーデも機嫌が良くなったようだし、私の思惑に賛同してくれるやもしれない。そんな更なる期待を込めて、私はイリオーデ達を見上げた。
 そして、今の私に出来る最大限の誠意を込めて、

「……そういう事だから、お願い、私に力を貸して?」

 上目遣いでおねだりした。
 うわぁあああぶりっ子っぽい! やばいつらい! 何より恥ずかしい!!
 今すぐにやめてしまいたい。だが、伯爵夫人も言っていたのだ──。

『王女殿下、この世の大抵の男は女のおねだりに弱いものですわ。ですので困った時は、女ならではの武器を惜しみなく使うべきです』
『ぐ、具体的には……』
『そうですわね……やはり上目遣いが鉄板でしょう。うちの旦那も上目遣いでお願いすれば一発ですもの。後はやはり猫なで声もよく効きます。王女殿下ならば十把一絡げの男達もこれで確実にイチコロですわっ!』
『い、イチコロですか……』

 そう、伯爵夫人は自信満々にご教授くださった。
 困った時は持てる武器を惜しみなく使う……それには賛成なのだが、やはり恥ずかしいというか緊張するというか。そもそも何故あんな会話に至ったのかよく覚えてない。
 なんか気がついたら、いざと言う時に役立つ処世術講座が始まっていたのだ。
 そうして会得したこのおねだり術……果たして本当に効いてくれるのか。
 不安と恥ずかしさで凄いドキドキする。ちょっとだけ、ちょっとだけ皆の方見てみようかな。と、ちらりとマクベスタや師匠の方を見ると。

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」」

 顔を手で覆い、物凄く大きなため息を吐き出している。師匠に至っては天を仰いでる。
 そして今度はイリオーデの方に視線を向けると。

「────」

 息を、していなかった。

「ちょっ、イリオーデ?! 呼吸忘れてる! どう生きてたら呼吸を忘れるの?!!!」

 呼吸もせずぽかーんとしているイリオーデの両腕を掴み、慌てて何度も前後に揺さぶる。途中でイリオーデが「はっ!」と息を取り戻したので私は安堵して彼から離れた。
 …………そこまで見るも憐れなものなのかしら、私のぶりっ子は。
 まぁ確かに、フリードルが突然ぶりっ子になったりしたら……あまりの気味悪さに氷河期並の悪寒がすると思う。じゃあそういう事じゃん。

 私はどうやら皆に氷河期並の悪寒を与えてしまったらしい。ぶりっ子のフリードルとか想像しただけで気味悪いもの、実際にぶりっ子になった私とか、果たしてどれ程に気味の悪いものだったのだろうか。
 想像したくもないわね。それを彼等に見せつけたの私だけど。