「例えどんな結末を迎えてもいいと……お前にその覚悟があるのなら、私にその命を預けなさい。お前の事は死なせない。生きて、必ず弟と会わせてみせる」

 私の言葉に、アルベルトはまた瞳を潤ませた。言葉に出来ない彼の感情を表すかのようにとめどなく溢れる涙。
 そして彼は頭を下げた。深く深く……今の彼に出来る最大限のお辞儀をしているようだった。

「……っ、お願い、します……! 一目だけでも……っ、無事で、元気なエルに…………弟に会わせて……ください!」

 鼻をすする音が聞こえる。痛々しいまでに切実なこの叫びを誰が無視出来ようか。
 私は彼を救いたい。彼の望みを叶えてあげたい。どれだけの人に後ろ指を指されても構わない。せめて、ほんの少しだけでも……彼に時間をあげたい。
 こんなにも──私《アミレス》に似た人を放っておくなんて事、私には出来ない。

「お前の命も罪も、私が全部預かるわ。だからもう泣かないで」

 光の無い、濁った灰色の瞳から溢れ出る涙を、私は指の腹で拭った。
 ……ゲーム通りに事が進めば、彼は数年後にフリードルによって殺される。そしてそれは恐らく例の男爵とやらが彼を切り捨てたからだろう。
 そうでもなければこんなにも強い男がいとも容易くフリードルにやられる筈が無い。確かにフリードルは強いけれど、アルベルトを瞬殺出来るかと言われれば、不可能だと思う。
 それだけ彼は強い。流石は攻略対象の兄と言うべきか……この世界は妙に攻略対象とその関係者が強い傾向にあるからな。
 ゲームでアルベルトは、たった一つの目的の為に生きていて……隷従の首輪を嵌めてきた男爵とやらに騙され、散々利用され、挙げ句の果てに捨てられ失意の中死んだのだろう。
 まるでアミレスと同じように。たった一つの願いを、思いを、散々踏み躙られた末に不要と生贄として殺されるだなんて。
 アルベルトとアミレスは似ている。だから何となくだけれど、私は彼の辛さや思いも分かる気がしたのだ。

「……大丈夫よ、お前は一人じゃない。私がいるから。本当は優しいお前と違う、悪逆非道な私が一緒にいるから。人を殺めた事でもう苦しまないで……その苦しみも、痛みも、辛さも、全部全部私が背負ってあげるから」
「でも、それじゃあ……貴女、が………」
「大丈夫よ、私、フォーロイトの人間だもの。おぞましい事に、私は人を傷つけても結構何も感じないのよ。私が肩代わりする事でお前が楽になれるのなら、いくらでも私に押し付けなさい。お前なら、それが出来るでしょう?」
「……俺の、魔力……気づいてたん、ですか」

 目を見開きたまげるアルベルトに向け、私は口を閉ざして微笑みかけた。
 サラの兄であると言う事、私の魔法がことごとく無効化されていた事、そして今の今まで全く正体が明らかになって来なかった事……それらから考えるに、アルベルトも恐らくサラと同じ闇の魔力を持っている。