「…………知ってるわ。私はお前の弟が何処で何をしているか、ある程度ではあるけど分かるかもしれない」
「っ?! 弟は、エルはどこにいるんだ……っ!?」

 サラが諜報部に所属しており、今から数年以内に神殿都市に潜入捜査に行く事を私は知っている。だが、果たして話してもいいのだろうか。
 諜報部の情報規制は凄まじい。まずその内部情報は外部に漏れないし、そもそも諜報部に誰が所属しているかなど……皇帝しか知り得ない。

 それを私が何故か知っていて更に外部の人間に漏らしたとあれば、どう足掻いても断頭台直行必至だ。
 本当なら、知っているかもと言う情報も言わない方が良かったのだろう。でも、言わなきゃいけない気がした。
 そうじゃないと目の前のこの男が今にも壊れてしまいそうな……そんな危うさを感じたから。

「……それはまだ教えられない。これを知れば、お前は死を免れない」
「そん、な…………どう……して……」

 ポロポロと涙を溢れさせ、男は悲痛に顔を歪めた。ああ、駄目だ……私は本当に最低な奴だ。
 沢山の人を死なせ怯えさせた殺人鬼なのに。私は、彼に少しだけでもいいから報われて欲しいと思ってしまう。
 ほんの少し前まであんなにも怒りを覚えていたのに。サラの喪失感の理由かもしれない、なんて些細な理由で──私は彼を救いたいと思ってしまった。

「お前、名前は?」
「……アルベルト」
「そう。アルベルトね……いい? 聞きなさい、アルベルト──私がお前の望みを叶えてみせるわ。アミレス・ヘル・フォーロイトの名にかけて、いつか必ず、お前を弟に会わせると誓おう」
「……え?」

 アルベルトの顔に驚愕が宿る。こんな事を言われるだなんて思いもしなかったのだろう。
 諜報部に所属する記憶喪失のサラをアルベルトの元に連れて行く事は至難の技だろう。だがそれでも、何とかすれば……可能性だってゼロじゃない。
 可能性がほんの少しでもある以上、私はそれに賭けたい。彼とサラの為に。
 アルベルトの青あざの残る顔に触れ、濁る灰色の瞳を真っ直ぐ見つめる。