「嘘、でしょ…………? だってこれは、皇帝が数十年前に全て廃棄させたって……」

 愕然とした私が信じられないと震える唇で紡ぐと、

「…………男爵が、知り合いの奴隷商から……数年前に譲り受けたと言っていた。その奴隷商も……隠し通すのが大変だったと、自慢していたらしい」

 男が無気力な声でそう答えた。
 ……そうだ、確かにあの時見たのは帳簿だった。それは売買記録では無かったけれど、その品が確かにあの商会にあったという事実があそこには記されていたんだ。
 まさかこんな所で繋がりに気づくなんて。じゃあこの人は、本当に騙されてこんな最低最悪な首輪を嵌められたって事? 無闇矢鱈と殺したくないと苦しそうに言う程に、本当は誰も殺したくなかったんじゃ…………。

 吐きたくなる程胸糞の悪い話に、私は怒りが込み上げた。もしこれが全て事実ならば……彼の言う男爵とやらが最も罰せられるべき人間だ。
 彼も実際に人を殺してしまった以上、罰は免れないだろうが……よりにもよって隷従の首輪を嵌められていた事を鑑みるに、多少の減刑はあるかもしれない。
 それだけ、あの魔導具は極悪なものなのだ。人類の生み出した負の遺産と言っても差し支えない程に。

「…………お前が罪を免れる事は不可能だわ。でも、せめて……少しでも罪が軽くなるように私からも訴えかけてみる。皮肉な事に……お前に嵌められたその首輪は、その訴えを現実のものと出来るだけの存在なのよ」

 そう言い放ち、私はスっと顔を上げた。極刑にならないように働きかけてみると……せめてお前の望みが叶うようにやれる限りの事をやってやると、そう伝えようと彼の顔を見たその瞬間。
 私の体は、脳はピタリと動く事を止めた。今日一の驚愕が、私に襲いかかる。
 ……ふと、見覚えのある瞳だと思った。その黒い髪も、思い返せば彼そっくりだ。