「ちょっとカイルさん、こっち来て貰えます?」
「はいはい何かねアミレスさんよ」

 ちょちょいと手招きすると、カイルはすぐ側まで来て少し屈んでくれた。そんなカイルに耳打ちする。

「この女の子、見ての通り被害者なのよ。今すごーく怯えてるみたいだから、貴方のイケメンパワーで何とかしてくれない?」
「おいおいおい人使いが荒いなこの王女。そんな理由で一国の王子を顎で使うかぁ普通?」
「仕方ないでしょ、私はフォーロイトなのよフォーロイト。この国じゃそれなりに恐れられる存在なのよ」
「フォーロイトとか言うネームブランドつえーな」
「つえーのよ、フォーロイトは」

 表情豊かにコソコソと内緒話をする敵対する国の王女と王子。私の提案に最初こそ難色を示していたカイルであったが、結局は折れて女の子を慰めてくれる事に。
 さて、攻略対象の底力……見せてもらおうじゃないの!

「…………あー、その、何だ。大丈夫かお嬢さん? 立てる?」
「ひゃ、はひ……っ」

 カイルのイケメンスマイルが女の子を攻撃する。私達の名前に怯えていた女の子はカイルの笑顔で全てを忘れたように赤面し、あわあわとしていた。

「体つめてーし……うーん、抱き上げた方が早いか。じゃあちょっと失礼しますよお嬢さん」
「えっ──きゃあ!」
「こうして体くっつけといた方が体も温まるっしょ。ああ、念の為に俺の首に手回しといてね」
「は、はぃぃ……!」

 カイルは眩しい笑顔を浮かべながら軽々と女の子を抱き上げた。その抱き方、お姫様抱っこ。
 突然隣国の王子にこんな優しくお姫様抱っこをされては……並大抵の女子ならイチコロだろう。それは彼女とて例外ではないらしい。
 さっきまであんなにも青い顔で震えていた女の子が、今や耳まで真っ赤にしてカイルに抱き着いている。うーん、女の子の心に傷が残らなさそうで良かった良かった。
 カイルもナイス! と小さく拍手を贈っていると、

(この子どうすればいいんだ? 俺、この後何したらいいの?!)

 カイルが助けを求めるような視線をこちらに送って来た。
 私が任せた事だけど……私もこの後どうしたらいいのか分からないのよね。

(私もよく分かんないし自己判断に任せるわ。ファイト!)

 とサムズアップして視線を送り返す。天才のカイルならきっとこの状況も上手く脱せる事だろう。
 私は貴方を信じているからこうしたのよ、カイル。自分を信じろ。

(俺を見捨てるなァ!!)
(見捨ててなんかないわよ。とにかくファイト!)

 カイルとそうやって視線で会話しあう。
 何やかんやでカイルは女の子を家まで送って行く事にしたらしい。流石にこの事件の後で一人で帰すのもなぁ……とカイルの良心が総動員された結果のようだ。