「今日は外れかしら……」

 元々それらしき人物が現れるまでの長期戦のつもりでいたのだが、私としてはこれ以上被害者が出る前に犯人を捕まえたいのだ。
 ちなみに服は私兵団の団服をちょっと変えた私専用特別仕様の戦闘服。シャンパー商会がこれでもかと言う程に特殊な素材を使い作り上げた一点物。

 いつも市販のシャツとズボンで特訓していると話したら、伯爵とメイシアにそれでは駄目だと言われてしまい、『我々が責任をもってご用意させていただきます!』と息巻く伯爵によって本当に用意された代物なのだ。
 実はメイシアが皇宮に来る際に納品がてら持参したものである。これがね……本当に驚く程に暖かい。冬場でもこれ一つで出かけられるんじゃないかってぐらいに暖かい。
 ただ、外気に晒される顔だけは全然寒い。仕方ないよね、服ってそういうものだもの。

「……しかし、これは何かの役に立つのかなぁ」

 ふと手首に目をやると、そこにはキラキラと輝く赤い宝石のブレスレットがある。
 これはこっちに来るなと返事を送った後にカイルから送られて来た、お守りとやらだ。カイル曰く、暫くは風呂とかの時以外肌身離さず持っとけとの事。
 本当に気休め程度のお守りなのか、はたまた何かしらの役目のあるお守りなのか……詳しい説明が無かった為、その辺は私もよく分からないままこうして身につけている。

 これを見た師匠やシュヴァルツが凄く不機嫌になってたんだけど……やっぱり赤い宝石だからかしら。
 何かと赤が関連する事件を捜査する人間が不必要に赤いものを身につけるなー、って感じ? まぁ確かに、狙われる可能性のある要因を増やすなって話よね。

「ま、本当にただの宝石みたいだし……気休め程度のお守りぐらいに思っておこう」

 過度な期待は良くないからね。とため息をつき、改めて外に目を向ける。
 寒さから鼻や耳を赤くしながら私は監視を続けた。なんの変化も起きない景色を見下ろしては平和に安堵し、同時に焦燥感にも駆られてしまう。
 伯爵夫人とクラリスが死ぬ事は無くとも、その二人の代わりに別の誰かが少なくとも後二人死ぬ可能性がある。それを阻止する為にもいち早く犯人を見つけなければならない。

「──きゃあっ!!」

 その時だった。どこかから女の子の悲鳴が聞こえて来た気がした。ほんの一瞬の事だったけど、あれは間違いなく悲鳴だ。
 何かあったのだろうか。もし万が一、犯人に狙われている女の子の悲鳴なのだとしたら……今すぐ助けに行かないと。