「これから第八回緊急作戦会議を始める。準備はいいな?」

 猫がそう尋ねると、その場にいた者達は一様に首肯した。
 これはある夜中に猫主導のもと行われた緊急作戦会議。これの参加者達は非常に緊張した面持ちでこれに臨む。

(──私は、何故こうも訳も知らず謎の集まりに呼ばれるのだろうか)

 ……未だよく現状を把握し切れていない、イリオーデを除いて。

「一つ、質問しても良いだろうか」
「許可しよう」
「これは何の集まりなんだ?」
「近頃アミィに忍び寄る不穏な影についての会議だ」
「王女殿下に忍び寄る不穏な影……?!」

 丁寧に挙手をして質問権を得たまたしても何も知らないイリオーデ。しかしシルフからの返答を以て事の重大さを把握し、イリオーデもまた緊張した面持ちとなった。
 その頬には冷や汗が滲み、良くない想像がイリオーデの脳裏をよぎる。
 そこで会議を進めんとしてハイラが口を切る。

「実は皆様がオセロマイト王国より戻って来てからというもの、姫様が何者かと手紙のやり取りをしているのです」
「……手紙?」
「はい。それは突然、この東宮に現れました。これまで一度も見た事の無い暗号に等しい何かで書かれていた為か差出人が分からず、明らかに怪しい手紙だったのですが……姫様だけは、その暗号を解読出来たのです。そしてその手紙を見た瞬間、姫様は血相を変えて『一人になりたい』と仰りました」

 ピクリ、と反応するイリオーデに向けてハイラが事のあらましを説明した。
 アミレスが謎の暗号を用いて何者かと手紙のやり取りをしている──その事実は、アミレスへと異常な執着を見せる者達に苛立ちを与えていた。
 今初めてそれを知ったイリオーデでさえも、大なり小なりの気に食わなさを感じているのだから、ここ半年近くずっと傍で内緒にされ続けていた者達のそれは想像を上回る事だろう。

「姫様の手紙の相手は我々も予想をつけておりますが……しかし問題はその手紙に使われている暗号なのです。何故その相手が扱う暗号を姫様だけが当然のように解読出来るのか。そして半年間幾度となく手紙のやり取りをする理由は何なのか。姫様が頑なに我々に内容を隠そうとする理由は何なのか。それが分からない為、我々は定期的にこうして作戦会議を執り行っているのです」
(……だから第八回なのか)

 ハイラが悔しげな面持ちで語ると、イリオーデは開幕のシルフの言葉に納得したようにその数字を噛み締めていた。
 そう。半年前より近況報告や意見交換の為に開催されているこの緊急作戦会議、実はこれで八回目なのである。これまでの七回でアミレスの手紙のやり取りの相手は予想を立てられたものの、それ以外は未だよく分からずじまい。
 そこに偶然イリオーデが東宮までやって来たので、ハイラの推薦からこの会議に巻き込む事となったのだ。