♢♢


 夜、伯爵夫人とメイシアとクラリスとイリオーデを交え、とても賑やかな夕食の時間を過ごした。
 いつもはシュヴァルツとナトラと近頃はマクベスタとも一緒に夕食を食べていたので、常に賑やかではあったのだが。
 マクベスタは元々の親善交流の期間を終えてから、『オセロマイトにとってのフォーロイトへの最大の忠誠』と言う謎の名目で貴賓では無くなったものの変わらず王城敷地内に滞在し続けていた。
 その為、親善の大使としての役目も無くなり、前よりもっと頻繁に東宮に遊びに来てくれるようになったのだ。それはもう、毎日遊びに来てくれる。
 そしてだいたいいつも一緒に特訓していた……のだが、今はこの通り私が仕事漬けなのでそうはいかなくなったのだ。

「……ん? カイルからの手紙じゃない。私の所に直接届くなんて珍しいわね……」

 部屋で仕事をしていると私の机の近くに突然小さな魔法陣が現れ、そこから落下するように手紙が出て来た。
 いつも東宮の廊下にいつの間にか落ちていて、誰かがそれを見つけては訝しげに私の所に持って来る…………なんて流れだったから、こうして実際に届く所を目の当たりにするのは初めてなのだ。
 本当にどういう仕組みでこんな事を可能にしているのか疑問で仕方ない。希少属性や一部の亜種属性を除きほぼ全属性の魔法を扱えるチートオブチートの肩書きは伊達じゃないわね。

「ふむふむ……もうすぐこっちに来る目処が立ちそうなのね。それは楽しみ……って駄目じゃない! 今来たらカイルも犯人の格好の的よ?! 急いで絶対来るなって返事しないと……!!」

 手紙を読みながら私はハッと恐ろしい事に気づく。
 カイルもまた燃え盛る炎のような濃い朱色の髪を持つ男。赤髪連続殺人事件なんてものが巻き起こるこの国に来させる訳にはいかない。
 例えあの男がいかなチート野郎であろうとも、万が一の可能性がある以上危険を犯させる訳にはいかないのだ。
 もし万が一、本編前にカイルが死ぬなんて事があれば──この世界は確実に滅びる。
 二作目のほぼ全ルートで発生する大いなる厄災の討伐イベント……あれには神々の愛し子たるミシェルちゃんとチートオブチートのカイルの力が不可欠だからだ。

「赤髪連続殺人事件が起きてるからお前だけは絶対に来るなよ…………! っと。いやほんとに……私の所為でカイルが死んで世界滅ぶとかマジでシャレにならないもの」

 慌てて返事を殴り書き、私はそれをすぐさま転送した。
 そして机に手をついて深くため息をつく。何故かこの一瞬でどっと心労が増えた気がする。急に世界の命運を握らされた気分だからかしら……。