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「……イリオーデ卿、もしや此処に来た事があるのでは?」
「……あぁ。王女殿下がお生まれになる前から……王女殿下が二歳になられる少し前まで、ずっと……私は此処にいた」

 アミレスが前方でシャンパージュ伯爵夫人とメイシアとクラリスに東宮の案内をする中、勝手知ったる二人はそれに付いて行きこそすれど、案内の邪魔にならぬよう後方を歩いていた。
 そこでハイラがイリオーデに話しかけたのだ。二人共、当然のようにアミレスから決して目を離す事無く会話を続ける。

「やはり。どうにも懐かしむ様子でしたから…………それにしても二歳になられる前の姫様ですか。私は四歳になられた姫様からしか知りませんので羨ましいです」
「それはこちらの台詞だ。四歳からこれまでの八年間を知るのだろう、ララル──ハイラは。私はそちらの方が羨ましく感じる」
「配慮下さりありがとうございます。お互い様ですね、これでは」

 二人は親しげに話していた。一見してアミレスに忠誠を誓う者以外の共通点など無く、普段から関わり合いの無さそうな二人ではあるが──その実、どちらも帝国が四大侯爵家出身と言う秘密を抱える存在。
 帝国の財を担うララルス家の庶子ハイラ(本名マリエル・シュー・ララルス)と、帝国の剣を担うランディングランジュ家を追い出されたイリオーデ・ドロシー・ランディングランジュ。
 この二人は、ホリミエラ・シャンパージュ伯爵を交え三人でとてつもない計画を成し遂げようとしている最中であった。

 赤髪連続殺人事件なんて物騒な事件が起きていようが関係ない。この三名は敬愛せしアミレスの為に帝都に混乱を齎しかねない事をやってのけようとしている。
 ……のだが、まさかまさかの事態。その赤髪連続殺人事件にシャンパージュ伯爵夫人とイリオーデの家族でもあるクラリスが巻き込まれる可能性があると判明した。
 その上アミレスがこれを解決してみせると息巻いているのだ。彼女の性格上、また絶対に無茶をする……と彼等三人は確信していた。
 それ故、例の爵位簒奪計画は一時中断。この事件が解決してから再開しようと話し合ったらしい。

(ああ、やはり彼は──)
(……彼女はどう考えても──)

 爵位簒奪計画を切っ掛けに関わるようになった二人ではあるが、ここまでの何度かの対面と会話で、お互いの事をよく理解したようだ。

(同類ですね……)
(同類だな)

 その通りである。どちらも分かりやすくアミレス至上主義の忠誠激重人間である。どうやら本人達にもその自覚があるらしい。
 この場合において救いとなったのが──この二人が同担拒否では無く他担拒否のタイプであるという事だろうか。もし二人共が同担拒否であればこの場で血で血を洗う戦いが起きていた事だろう。