はい、物の見事に氷銀貨八十枚のお釣りが返ってきました。会計場に積み上げられた氷銀貨のタワーに、他のお客さんも店員さん達も開いた口が塞がらないようだった。
 一番驚きたいのは私、ですけどねー……。
 それらを全て鞄の中に突っ込むと、当然だがかなりの重量となった。そもそも猫シルフが入っていたから重くはあったんだけど……本当重い、なんだこれ。肩がちぎれそう。
 そして、マクベスタへのプレゼントを手に悠々とお店を出て、辺りを見渡す。初めての景色……初めての街、たったこれだけで帰るなんてちょっと勿体ないんじゃあないか?
 私はニヤリと口角をあげて、シルフへと話しかける。

「ねぇシルフ、このまま少しだけ街を見て行かない? 次いつ来られるか分からないし、今のうちに楽しんでおきたいの」
「アミィがそうしたいのなら、ボクはそれに従うよ」

 鞄から飛び出して軽やかに地面に着地した猫シルフが、今度は私の体を慣れた動きで登っては肩の上に乗る。
 今日は肩への負担が凄い日なのね、と思いつつ私はクレアさんのメモ書きを見ながら歩き出す。
 やはりすれ違う人が皆こちらを見てくるのだが……肩に猫が乗ってるのが不思議で仕方無いのだろう。私があちらの立場であれば確実に二度見する自信がある。

「それでアミィはどこに行きたいの?」

 猫シルフが少し口を開いて問うてくる。……そういえば、猫シルフの言葉は普通の人には聞こえないらしい。シルフが聞こえるようにしてやろうと許可した相手にだけ、シルフの言葉は聞こえるそうだ。
 だから、このように街中で堂々と喋っていても普通の人には「にゃー、にゃにゃー」とかにしか聞こえない為問題無いのだとか。
 その代わり、会話をしていると私が物凄く怪しい人になってしまう。独り言を延々と呟く女だ、私は。

「えっとね、まずはこの果実水の露店に行きたいかな。その後はこっちの食事処でその後はこの……」

 クレアさんのオススメ店一覧を指さしながら、私は小声で話す。気になる所をいくつか挙げたのだがそれにシルフは、

「全部食べ物だね」

 と軽く笑いながら返してきた。食い意地の張った女と思われたかもしれない、まぁいいか。
 何せこの世界は日本の乙女ゲームブランドが作り上げた虚構。食べ物の水準は中世西洋モチーフの世界観の割にかなり高く、フォーロイト帝国やハミルディーヒ王国程の大国ともなると当たり前のように日本レベルの食事が日々食卓に並んでいる。
 つまり……何でもかんでも美味しいのだ。日本レベルの食事でありながら、食材は全く違うものなので飽きもしないし全部が全部真新しい。
 そりゃあ、食べ物にばかり目がいくのも無理はないでしょう?
 ちなみに我がフォーロイト帝国の名物は、氷を細かく砕いたものに果汁をかけて食べるいわゆるかき氷だ。フォーロイト帝国は別名氷の国とも呼ばれる程季節が変わろうとも年中涼しい気候で、貨幣の名称だったり皇族特有の魔力だったりで何かと氷に縁のある国なのだ。