「──もうこれ以上被害者は増やさせない。私が、この殺人事件を終わらせてみせる」

 私の大事な人達の家族を守る為に、私は立ち上がろう。フリードルにも警備隊にも任せず、私がやり遂げよう。
 大丈夫だ、たかが(・・・)殺人鬼……目に見えない呪いや皇帝に比べれば全く怖くない。私が恐れる事はただ一つ、ここから先のいつ起こるかも分からない犯行だけ。
 こうしちゃいられない。今すぐ伯爵邸と貧民街に行かないと……っ!!

「待て、アミレス」
「マクベスタ……?」

 歩き出そうとした私の手を、マクベスタが掴んで止める。そしてマクベスタは懇願するような、縋るような声でこちらを見つめてきた。

「……頼むから、もう、一人で全てを抱え込もうとしないでくれ。少しでもいいから、オレ達を頼ってくれ」

 マクベスタの言葉に同意するように、皆が何度も頷いた。

「でも、皆を巻き込みたくないの」
「そんなの今更だ。お前の傍にいる人間は、お前とならどんな事に巻き込まれてもいいと思っているからな」

 皆を巻き込みたくない一心から、一人で何とかしようとしていた私の心を見透かしたように、マクベスタは語った。
 その言葉を受け、改めて皆の顔を見渡すと……マクベスタの言う通り、皆が覚悟は出来ていると言わんばかりの表情をしていた。

「凄く危ないかもしれないのよ?」
「そんな所にお前一人で行かせる事の方が、オレ達にとっては苦痛で仕方ない」
「……死んじゃうかもしれないのよ?」
「大丈夫だ、オレ達とてこんな所で死ぬつもりは無い」

 最初からそう決めていたかのように、マクベスタは私の言葉に次々答えていった。
 そして、最後に眩しい笑顔で彼は言い放った。

「もし死んだとして──お前の為に死ねるのならば、オレはこの世界の誰よりも幸せ者だ」

 駄目……その言葉は、その笑顔は、ミシェルちゃんのものなのに。マクベスタのルートのバットエンド、その時のマクベスタの台詞……。
 初恋の相手たるミシェルちゃんを守る為に命を懸けた、マクベスタの台詞だ。
 それをこんな所で、こんな事で言うなんて。駄目よ、その言葉を言うと、貴方は死んでしまう──。

「っ駄目! 絶対、絶対に貴方は死なせないから! 私が絶対に貴方を、貴方達の未来を守るから……っ」

 今度は私が縋り付くような、誓い立てるような声で言った。マクベスタの手を握り、「だから死なないで」と繰り返した。
 そんな私の様子を、きっと皆は困惑しながら見ていた事だろう。だがその正誤は私には分からない。
 あの後、師匠にシャンパージュ家とディオ達への伝言を頼み、私は一旦頭を整理したいと言って一人になったから。
 ここ数日の雪で徐々に高さを増す雪のカーペットを踏みしめ、雪の降る庭で私は空を見上げた。灰色の空から降り注ぐ白い雪。
 ずっとそれを見上げていたら、途中でバランスが崩れて背中から雪の中に倒れ込んでしまった。