「大丈夫かアミレス?!」
「どうなされたのですか姫様!?」

 そしてマクベスタとハイラは冷や汗を浮かべ、詰め寄って来る。突然狂ったように叫んで黙り込んだからか、かなりの心配をかけているようだ。

「……いや、ちょっと……不味い事に気がついて。ごめん、急に大声出して」

 何とか笑顔を作る。しかしその間にも私の脳内は焦燥に煽られていた。
 現時点の被害者は六人。七人目になる筈だった伯爵夫人は、師匠が昨夜刺されて逃げた事から多分まだ無事だ。だが安心は出来ない。
 八人目はどんな人が殺されたって話だったかしら……確か城勤めの役人で、九人目は貧民街の若い女……ってフリードルが話してたような。

 ピタリ、とそこで私の思考は一時停止する。貧民街の若い赤髪の女性に心当たりがあったからだ。
 それって、もしかしなくても──クラリスなんじゃないのか? クラリスだってとても綺麗な赤髪をしている……この流れで狙われても何らおかしくない。
 不味い、まずいまずいまずいッ! 本当に不味い事になって来たぞ……! まさか伯爵夫人とクラリスまでターゲットになるなんて!!

「……っ、最悪だ……!!」

 こんな殺人事件、警備隊に任せておけばいいなんて思っていたけれどそうも言ってられなくなった。
 初めての女友達の大好きなお母さんと、何があっても私が守らないといけない私兵が殺人事件に巻き込まれる事になるなんて!
 少なくともフリードルは後三人殺されるまで犯人を追い詰められない。フリードルに任せてたら伯爵夫人とクラリスは死んでしまう。それでは駄目だ。

「アミィ……?」

 シルフがこちらを心配げに覗き込んでくる。だが私はそれに反応出来なかった。
 守らなきゃ。起こると分かってしまった以上、狙われると分かった以上守り抜かないと。
 体側で拳を強く握り、私はおもむろに立ち上がった。そして、焦りと緊迫から震える喉に喝を入れ、宣言する。