『追伸 近いうちにそっち行くかも。その時はまた手紙送るんで、良かったらいつなら来ても大丈夫かとか教えてクレメンス』

 いやオタクだなほんとに。クレメンスとかきょうび聞かないわよ。古のオタクかこいつ……??
 しかし、カイルの奴今軟禁されてるって言ってなかったっけ…………軟禁から解放されたのかしら? まぁとりあえずいつなら来ても大丈夫そうか教えてあげよう。今丁度皇帝が帝都にいないし、来るなら今よね。

 向こう三ヶ月ぐらいは来ても大丈夫と思う。フォーロイトの冬は割とマジでやばいから暖かい格好で来なさい。後、クレメンスは古いわよ……っと。
 オセロマイトの一件から便箋を自室の机に常備するようになったので、引き出しからそれを取り出して私はカリカリと日本語を書き連ねる。
 念の為にといつも手紙を読み手紙を書く時は皆に席を外して貰うようにしている。

 向こうからすればこんなの意味不明な言語で暗号に他ならない。そんなものを使って王女がどこかの誰かと手紙のやり取りをしてると私の味方でない人に知られれば大変だからね。
 敵ばかりでいつどこから情報が漏れるかも分からないから、念には念をと慎重を期す必要があるのだ。

「……よし、今回の返事はこれでいいかしら。あ、そうだ折角だから……」

 封筒に便箋を入れ、最後に封蝋をして返事は完成。
 魔法陣の上に手紙を乗せ、ついでに私はお菓子として用意されていたハイラの手作りクッキーを何枚かハンカチーフで包み、『おすそ分けよ、ありがたく食べなさい』と書いたメモと共に手紙の上に置く。
 そして合言葉──アンディザ最高! と日本語で唱えるとそれらは見事カイルの元へと転送される。

「ん〜っ、疲れたぁ……休憩がてら素振りでもしようかしら」

 背伸びをしながら私は呟いた。今日はずっと座りっぱなしだったので、体が固まっている。これではいざと言う時に困るので、適度な運動をする必要があるのだ。

「この時間だとマクベスタが特訓中よね。よし、ちょっと一試合申し込もーっと!」

 記憶力に定評のある私はマクベスタが特訓中である事を思い出した。
 そして、そのマクベスタに試合を申し込もうと、白夜を片手に特訓場まで上機嫌に駆け出したのであった。