そして、この件を切っ掛けに皇太子派閥の貴族は本格的にこちらを敵対視するようになったのだ。
 どちらかと言えば私は被害者なのに。それなのに野蛮王女が罪をでっち上げて皇太子派閥の貴族を貶めた! とかなんとか社交界では言われているそうな。なんたる被害妄想……帝国貴族が聞いて呆れるわ。

 確かにシャンパージュ伯爵家と仲良くなったのは事実だけど、そもそもフリードルが皇太子になってからもう十年近く経つのよ? 派閥がどうこうと言うけれど、それもう意味の無い事ではなくて?
 なんで私がその派閥争いに巻き込まれそうなのか、全くもって分からないわ。

「……そうは思っていても、社会が放っておいてくれないのよねぇ……はぁ、鬱だわ……」

 これからも皇太子派閥の人達に襲撃されたりするのかと思うと、私は憂鬱で仕方なかった。まるで嫌がらせとばかりに見知らぬおっさんから押し付けられた仕事を終わらせ、はぁぁぁぁ……と大きくため息をつく。
 何だか最近、仕事が増えつつある気がする。確実に皇太子派閥の人間の嫌がらせだけども。貴女にこれが出来ますか? なんて言いたげに毎度毎度こちらに仕事を押し付けてくる。

 すっげー侮られてるみたいでムカつくから、ちゃんと終わらせてるけども。
 どうやら社交界の人達は私が剣を握る事しか出来ない出来損ないと思っているらしい。まぁ、今まで一度も教師を雇った事が無いのだから当然かもしれない。
 しかし私の身内には優秀な先生がいた。主にハイラだけど。

 彼女のお陰で私は様々な知識を得る事が出来たし、こうして押し付けられた仕事をちゃんとこなせるぐらいには頭も回るようになった。
 そう、仕事の内容自体は比較的簡単なのだ。問題は量である。
 絶対残業だけはしないと決心し、いつも頑張って終わらせているからか最近は特訓も休みがちで…………マジで許せないわ皇太子派閥のおっさん共、今すぐ禿げてしまえ。

「アミレス、また例の手紙が来おったぞ」

 おっさんの頭が禿げるよう恨み言を口にしていたら、ナトラが扉を開けて部屋に入って来た。その手には一通の手紙が。
 私はそれを受け取り、ペーパーナイフで開封する。中からは一枚の便箋……と、手紙の返送用の小さな魔法陣が出てきた。