「話に聞いてた通り人っ子一人いねぇな、皇宮だってのに。侍女の一人や二人、いいのがいたら連れ去ろうと思ってたんだがな」
「いいじゃねぇか、仕事がやりやすくて」
「で、俺達のお目当てはどこにいんのかねぇ」

 まるで野盗のような格好をした、武器を手に持つ十人近い大人達がわらわらと東宮に侵入して来る。最早姿も正体も隠すつもりがないようで、堂々とした態度で皇宮内を歩く。

「ここか?」
「おーいこっちの部屋にもいねぇぞ」
「どこなんだよ……」
「部屋だけ無駄に多いな」
「ったく、どこにいんだよ野蛮王女ってのは」

 手当り次第目に付いた全ての部屋の扉を開ける男達。泥の着いた靴で美しい廊下を歩き回り、粗暴な振る舞いで東宮を荒らす。
 男達は何かを探すように全ての部屋を見て回り、しれっと金目の物を懐にしまっていた。
 そのような強盗の侵入に、シュヴァルツとナトラもすぐさま気づいたのである。

「なんじゃ、招かれざる客が来おったのう」
「ほんとだぁ。どーするー?」

 静かな廊下に響く話し声や足音や荒々しく扉を開ける音が、ナトラとシュヴァルツの元へと徐々に近づいて来る。
 チッ、と面倒事に舌打ちを落とすナトラにシュヴァルツがどうするかと問う。その問にナトラはふむ……と顎に手を当てて思案した。

(……はっきり言って面倒極まりない事なのじゃが……しかし、しかしじゃ。アミレスの留守を守ったとあれば、アミレスは我を褒めてくれるじゃろう。くふふっ、良い、良いぞ。我、褒めて貰えるなら頑張るのじゃ!)

 キュピーン、と翡翠のツインテールを揺らしてナトラは妙案を思いついた。その口元はだらしなく笑みを作り上げており、その頬には浮かれの象徴ともとれる赤みが浮かぶ。
 それはもう、ナトラが何を考えているのか一目で分かる程。

(多分、おねぇちゃんに褒めて貰えるだろうから頑張るぞとか考えてるんだろうなァ。ほんとにチョロいなこの竜……まぁぼくも今はそれで全然動くんだけども。おねぇちゃんに褒められるのって……なんかこう、凄い中毒性があると言うか…………自己肯定感ぶち上がんだよねぇ……)

 突然ニヤニヤとするナトラを見て、シュヴァルツはその思考を見事ズバリ当ててみせた。
 麻薬に等しいアミレスに褒めて貰うという行為……それにはナトラだけでなくシュヴァルツもまた若干の依存を見せていたのだ。
 その為、ナトラの思惑に思わず共感したシュヴァルツは真っ白なアホ毛を揺らして小さくうんうん、と頷いていた。
 そしてアミレスに褒められる事を妄想していたナトラは、シュヴァルツよりどうするかと意見を求められていた事を途端に思い出し、ハッとなる。