「ようこそお越しくださいました、アミレス様!」
「こんにちは、メイシア。夫人の様子はどうかしら?」
「今では庭を散歩出来る程まで回復しました。本当に、アミレス様のおかげです」
「そう、なら良かったわ。今、夫人に挨拶出来そうかしら?」
「勿論です! 是非、お母さんにも会っていってください!」

 出迎えてくれたメイシアと話しながら、私は先に伯爵夫人に挨拶に向かう事にした。
 伯爵夫人と改めてお会いしたのは帝国に帰って来てから一ヶ月と少しが経った頃だった。その頃には夫人の体調もかなり回復していて、私はシャンパージュ伯爵邸の皆様に改めて非常に感謝されてしまった。
 それからというもの、貧民街大改造計画やデザイナー業の話の為にシャンパージュ伯爵邸に訪れた際は夫人にも挨拶するようになったのだ。

 伯爵夫人の部屋の扉をメイシアが「アミレス様がいらっしゃったよ、お母さん!」と言いながら開く。ぺこりとお辞儀をしながら部屋に入り、元気そうに刺繍をしている伯爵夫人に私は「こんにちは、伯爵夫人。お加減はいかがですか?」と挨拶をした。
 伯爵夫人は美しく柔らかな微笑みを浮かべ、

「お陰様でかなり良くなってまいりました。アミレス王女殿下が気を使ってくださったからですわ」

 刺繍の手を止めて小さく頭を下げた。顔を上げてくださいと言うと、相変わらず皆困ったような驚くような瞳でこちらを見てくる。
 ……そんなにおかしいのかなぁ、人に頭を下げさせるのがどうも苦手なのって。だって嫌じゃない? 年上の人達に何度も頭下げられるの。なんというか、こう…どうすればいいか分からなくなるわ。

「夫人、その後はどうだー? 魔眼の力が無くなった訳だが」
「エンヴィー様のお陰で何かを見る事が怖くなくなりました。ただ、少し視力が落ちたような気がします」
「まぁなァ、魔眼がその力を失えば残るものはただの目ン玉だ。魔眼だった頃より視力が落ちんのも仕方ねぇーよ」
「そういうものだと割り切って、今はこの視力に慣れるよう、こうして細かい作業をしているのですわ」

 師匠と伯爵夫人が医者と患者の診察のように話す。そう、実はメイシアとは違って伯爵夫人は師匠に延焼の魔眼の力を回収して貰っていた。私はその時初めて伯爵夫人も魔眼所持者である事を知った。
 ……そう言えば、帝国に戻ってきてからというものの……師匠は妙にメイシアと仲がいい。というか頻繁に会っているようだ、私よりも多く。
 ずるくないかしら。私だってメイシアに会いたいのをぐっっっ……と堪えて日々公務と貧民街大改造計画の総指揮とデザイナー業と特訓頑張ってるのに。

 あぁ、ちなみに公務というのはですね。なんと先月より皇帝がタランテシア帝国に用があるとかで、数ヶ月間帝国を空ける事になったのだ。
 それにあたり本来皇帝がやるべき公務や仕事全てが皇太子たるフリードルに押し付けられ、これまで蔑ろにされまくってた私まで、何故かその巻き添えを食らったのだ。
 とは言えども。皇帝はいないがケイリオルさんはフリードルの補佐として帝国に残っているので、困った事や限界が来たらあの人を全力で頼ろう。

 多分、何となくなんだけど……ケイリオルさんは味方な気がするのよね。
 少なくとも皇帝の側近(ケイリオルさん)にアミレスが殺されるのは一作目にしかないシナリオだし、二作目では皇帝とか攻略対象に殺されるので、ケイリオルさんに殺される事は無い。
 つまり二作目の世界と仮定しているこの世界において、彼はフリードルや皇帝程警戒する必要の無い相手なのだ。
 何だかハイラもケイリオルさんの事は信用しているみたいだしね。きっと信じても大丈夫だろうと、この六年で私も判断したのだ。