「すごい……これが帝都……!」

 まるでお上りさんのように視線を縦横無尽に走らせ瞳を輝かせる私に、近くにいたご婦人が微笑みながら、

「あらあら。お嬢さん、帝都は初めてなのかい?」

 RPGのNPCのような事を言ってきた。私はそれに、

「はい、恥ずかしながら今日が初めてで」

 と正直に話した。
 実は私、この六年間一度も城の敷地内から出ていないのだ。
 そもそもフォーロイト帝国は城を中心としてその周りに円形に大きく城壁がそびえ立つ。
 その城壁より内側を城の敷地内と私は定義しているのだが、城の正面を城門側とすると城門から見て右側には使用人宿舎と騎士団隊舎と訓練場があり、城門から見て左側には地下監獄へと続く幽閉塔と様々な城勤めの者達の職場があり、最後に城の裏手に私達皇族の住まいでもある皇宮と、今は使われておらず封鎖されている雪花宮(せっかきゅう)という建物……というかエリア? がある。
 私はいつも皇宮と、特訓の為に皇宮近くの誰も来ないような辺鄙な場所を行き来するだけの日々だったので、六年間一度も城の外に出てないのだ。
 もし欲しい物があればハイラさんに頼めば良いし、そもそも皇帝に皇宮から出るなって言われている。だから今までずっと大人しくしていたのだが……今回は事情が事情なのでこっそり脱出したのだ。

「お嬢さんみたいな綺麗な子が一人で歩いてちゃ危ないわよぉ〜、絶対に人が少ない所に行っちゃ駄目よ? そうだわ、これ持って行きなさいな」

 ご婦人がそう言って手渡して来たのは、スーパーボールのような謎の球だった。

「それはどこかに思い切り叩きつけたら発動する刺激的な煙幕だよ。変な男に絡まれたりしたら直ぐに投げなさいな」
「え、煙幕ですか……」
「貴女みたいな可愛いくて綺麗なお嬢さんなんて、すぐ悪い男の餌食になっちゃうわよ。だからほら、遠慮せず」

 その穏やかな笑顔や風貌からは想像も出来ない程ぐいぐい来るご婦人に押され、私は煙幕玉を7つ程頂いてしまった。
 ついでに、このご婦人……クレアさんはどうにもこの街の事情に随分通じているらしく、私がオセロマイト産の品物を探していると話すとオススメのお店を教えて貰えた。そこまでの地図も頂戴してしまい、ついでにと他にも色々とオススメのお店を教えて貰った。
 今若い女の子に人気のお菓子屋や服屋、他にも絶対に信頼出来る宿屋や情報屋などなど…………何故それを私のようなお上りさん疑惑のある女に? と疑問が沸いて出ていた。
 本当に、途中からクレアさんが何者か分からなくなって怖かった。このご婦人絶対只者じゃない、この会話で確信した。
 そしてクレアさんから頂いた地図と煙幕玉を手に別れを告げ、私は地図に従って進んでいく。一応猫シルフも一緒にいるし愛剣も佩刀しているから、もし何かあっても多分何とかなるはず。
 それでも念の為にとクレアさんのアドバイスに従い危険な香りのする道は避けて行く。ところで色んな人……特に男性にチラチラ視線を送られているのだが、もしかしてバレた? 髪の色変えたのに?