別に石を投げられた所で避けられるから良いのだけど、もし私以外の誰かに当たったら危険だし……何より、例えどれだけ彼等彼女等の怒りが正しいものであっても、この私(・・・)に石を投げたという事実が彼等彼女等を許さない。
 どれだけ私が許しても、皇族に危害を加えようとした罪は重く、彼等彼女等の正当な怒りさえもねじ伏せてしまう。それが嫌だから私は極力姿を見せないようにしているのだ。

 だが今日はシャンパージュ伯爵家に寄ってからその貧民街に行く予定である。お前さっき貧民街には行かないって言ったよな?? なんて囁きが聞こえて来そうだからここでその事についての説明といこう。
 実は私はこの貧民街大改造計画とは別に、新たな事業擬きを始めたのだ。それが今回、シャンパージュ伯爵家に寄ってから貧民街に向かう大きな理由となっている。

 少し恥ずかしいのだが──いわゆるデザイナー業のようなものだ。
 事の発端は数ヶ月前。私兵となった皆にせっかくだから何か制服でも用意してあげようと思い、そのデザインを自分でした。我ながらカッコイイ制服が出来たのではと自信満々になり、シャンパー商会に試しにデザイン案を渡して発注してみた所、

『──アミレス様、是非、我が商会で洋服ブランドを立ち上げてみませんか!?』

 メイシアが瞳を輝かせてそう提案して来たのだ。どうやら、完全自己満足でかっこよく仕上げたあの制服デザインをメイシアがいたく気に入ってくれたようだ。
 急にブランドとか言われても、と私はちょっと恥ずかしくて困り気味だったのだが、メイシアがそのデザイン案をシャンパージュ伯爵に見せたら、

『──アミレス王女殿下、これは売れますよ!!』

 伯爵までもが鼻息を荒くして新たな商売に心躍らせているようだった。名誉や地位なんかより商売に命懸けるような家系だもんね……シャンパージュ伯爵家は……熱量が凄い。
 そう少し引き気味だった私ではあるが、この時、貧民街の件とオセロマイトの件で東宮に与えられた予算《おこづかい》も大分減って来てちょっとカツカツ、という事を思い出した。
 …………あれ、これもしかしなくてもやばいのでは? そう焦った私は、

『──やりましょう、新規ブランド!!』

 本当に金になるのならとデザイナー業を始めた。
 あのデザイン案は私兵団の為に用意したものだったので、それとは別で一般的な女性向けの服をまず考えてみた。
 ターゲット層はひとまずメイシアの助言から貴族の女性。普段着に使いやすいドレスや小物を考える事となった。