当然だ。何せ王女殿下が私の名を呼んで下さったのだから! 王女殿下が! 私の名を!!
 『いーぉーで』と舌足らずにも愛らしく懸命に我が名を呼んで下さっていたあの王女殿下が、こんなにもハッキリ『イリオーデ』と呼んでくださったこの事実に。私は歓喜に打ち震えていたのだ。
 これに興奮せずして何に興奮しろと。その喜びのあまり私は、『私は王女殿下の騎士ですので』などと答えになっていない言葉を返してしまっていた。

 王女殿下は何やらシャルに用事があるようで、シャルがどこにいるのかと尋ねて来た。
 何故王女殿下があの天然馬鹿(シャルルギル)に……と私は柄にもなく拗ねていた。しかし私は王女殿下の騎士だ。王女殿下に問われたのならば答え(ていなかったが)、王女殿下に求められたのならば応える。
 なのでシャルがいるディオの家まで案内したのだが、あいつ等、まだ着替えていた。遅過ぎる……王女殿下のお目汚しをしおって。
 そう責任転嫁すると、ディオの当然の怒りがこちらに飛ばされる。だが私はそれを無視した。

 そしてシャル達の準備が終わり、王女殿下のお話を聞く事に。それは他国にて蔓延する未曾有の伝染病を根絶しに行くというもの。
 ああ確かに、それならば王女殿下がシャルに用事があると仰ったのも納得だ。とても危険で、今すぐにでもお止めしたいような無謀な計画……だが、王女殿下の瞳にある決意は揺るぎないものであり、それに私が異を唱える事などあってはならない。

 ならばせめて。私もそれに同行し、いざと言う時に王女殿下のお力となれるようにしようと。
 とにかく何とかしてシャルと共に行こうと決めた私は、馬車の手綱を引く役目に食い気味に立候補した。我ながら、他の追随を許さない素早い挙手だったと思う。