ああ……本当に夢のようだ。ご成長なされた王女殿下に今一度お会いする事が叶い、更にはあの御方の剣として生きる事が出来るなんて。
 湧き上がる喜びに胸を焼かれ、心臓が熱く鼓動する。悪夢から訪れた苦しみ達も、この喜びによって押し潰されどこかへと消えていた。

 ……だがしかし、一つ懸念すべき点もある。王女殿下があまりにもお強い事だ。
 仕える主が非常に強き存在であるという事は騎士にとって光栄な事。そのような主に仕える事を許されるのだから、騎士としてはこれ以上無い栄誉となるのだ。
 だが同時に、主に恥じぬ強き騎士である事が求められる。その為、王女殿下の騎士たる私は強く在らねばならない。もっともっと強くならねばと決意した私は、寝台《ベッド》から飛び降りて剣を片手に近くの空き地へと向かった。
 そして基礎的な体力作りや筋肉作りを中心に体動かしていた。

 そんな鍛錬の最中思い出されるは、王女殿下との十年ぶりの再会となったあの日の事。
 あの奴隷商の一件でディオに取引を持ちかけた勇敢な少女……私はその夜のうちに例の少女と顔を合わせる事はなく、ディオ達づてにその話を聞いただけだったのだが、その夜に少女に会おうとしなかった事を、あの日後悔した。
 その少女が私達全員に用があるとラークが呼びに来て、皆でディオの家に向かった所…………あの御方が、そこにいた。

 ──桃色の髪に寒色の瞳。一目でわかる。例え髪の色が変わっていようと、私がその御方を見間違える訳がない。あんなにも皇后陛下と瓜二つな御方などこの世界にただ一人。
 息が止まった。あまりにも突然の出来事に視界がチカチカと瞬いているようだった。その後、追い討ちとばかりにディオの口から紹介されたあの御方の御名前。

 ずっと、ずっと私が思い続けていたたった一人の女性の尊き御名前。それを聞いて、更に王女殿下と一瞬目が合ってしまった時……私は、顔を逸らしてしまった。
 あまりにも突然の事で心の準備が出来ていなかった……というよりかは、もし真正面からあの御方のご尊顔を拝謁してしまってはうっかり泣いてしまいそうな予感がしたのだ。
 そのような事、恥以外の何物でもない。それにこの時にはまだ、王女殿下が私の事を覚えているかもしれないという不安もあった。故に顔を……。

 十年ぶりだ。ずっとお会いしたかった王女殿下に、このような所でお会いする事が叶うなんて思いもしなかった! ああっ……あんなにも小さくか弱くあらせられた王女殿下がこんなにも大きく、まさに荘厳美麗……この世の何よりもお美しく気高く成長なされて……っ!
 今まで私が会ってきた全ての人間の中で最も優美で可憐──いや待て、落ち着くんだイリオーデ。

 ずっと、必ずや王女殿下のお傍にと考えていたにも関わらず、いざ王女殿下にお会いする事が叶った際に口にする言葉の一つも考えていないではないか。
 気の利いた洒落の一つも言えないで果たして王女殿下の騎士になれるのか、何故こういう事には気が回らないんだ私は!!
 と、私がそうやって一人で心の中で非常に焦り興奮していた所、メアリーとシアンが王女殿下に粗相を働いた。これが身内でなければ、私はその場で首をへし折っていた事だろう。