帝国騎士団は、実力のある者ならば身分を問わず毎年十二月に行われる入団試験を受けられる。しかし条件として満十九歳である必要があった。
 ただの兵士志望であれば満十三歳で入団試験を受けられる帝国兵団に行けばいい。
 騎士団は国に仕え皇族に仕える言わば皇族の財産に近いもの。故に訓練内容も厳しく条件も厳しいのだ。だが、私がランディグランジュの人間であった以上騎士以外の選択肢は初めから存在し無い。

 十九歳になった年には騎士団の入団試験を受けると決めていた。
 しかしそこで問題が発生した。受験料がいる。その時私達の貯金は直前に訪れた大寒波の影響で底を突いていて…………身分を証明出来るものが無い以上、金を借りる事も出来ない。
 ただでさえひもじい生活をしているのに、私の我儘でディオ達に迷惑はかけられまい。苦汁の決断ではあったが、その年は入団試験を見送る事にした。
 だがまだ大丈夫。王女殿下はまだご健在だ。来年こそ騎士団に入りいつか王女殿下の騎士に、と考えていたのだが。

 翌年、私が二十になった年は入団試験の審査員に兄がいると風の噂で聞いてしまった。
 私が野垂れ死んだと思っているであろう兄と顔を合わせる訳にはいかない。私が生きていると知った兄が何をしでかすか分からない。実の父に毒を盛って殺すような兄だ、きっとディオ達をも巻き込むに違いない。
 しかし。かと言ってこの機会を逃す訳にも……と悩みに悩んだ結果、この年も泣く泣く入団試験は見送ったのだ。
 私にとって大事な生きる意味である王女殿下。必ずや、貴女様のお傍に。まだ御歳十一の貴女様のお傍に馳せ参じる機会は、まだこれから沢山ある。
 だからいつか、必ずや。それまでどうか、お待ち下さい──。

 そう願い、やがて四年の月日が経った。私はもう二十三歳になっていた。
 結局私が騎士団入団試験を受けられたのはニ年前、それまでの二年間はずっと兄が審査員をしていたり、突然受験料が引き上げられたりと様々な理由があり受験出来なかった。
 それもこれも兄の所為だ。兄が爵位簒奪などしたから……私は家を追い出され、王女殿下のお傍にいられなくなった。

 もう、最後に王女殿下にお会いしてから十三年だ。王女殿下はどれ程成長されただろうか。きっと皇后陛下によく似てお美しくなられている事だろう。しかし、あの咲き誇る花のような笑顔は変わらないだろう。
 ……などと思い馳せ、その度に私は、見習い騎士として王城に行く事となってからよく耳にするとある噂を思い出す。王女殿下が皇帝陛下と皇太子殿下に疎まれていると言う噂。

 確かに、皇帝陛下は王女殿下への殺意が異常であらせられた。しかしそれは皇后陛下の事があったからで……まさかそれが十年以上も続いているのか? 皇太子殿下をも巻き込み王女殿下へと八つ当たりをしているのか? そう、見習い騎士として訓練に励む私は日々考えていた。