……だけど。だからこそ。私達だけは王女殿下のお誕生日をお祝いしなければと思った。
 勿論皇后陛下の命日も忘れていない。だが、それで王女殿下のお誕生日を蔑ろにしてしまってはそれこそ皇后陛下がお怒りになられるであろうと、私とクレアは話し合った。
 そして初めての王女殿下のお誕生日パーティー。ささやかながら私達はめいいっぱい、今日と言う日に思いを込めてお祝いした。
 その時だった。王女殿下が、小さく柔らかい御手で私の指を掴んで──

『いーぉーで!』

 ──私の、名を呼んでくださったのだ。咲き誇る花々のように明るく愛らしい、全てを照らす太陽のごとき眩い笑顔だった。
 少しでも力を入れたら……ただ触れてもあっという間に壊れてしまいそうな、そんな小さくか弱い存在。皇后陛下より託された、尊き御方。

『……っ、はい、はい……! イリオーデでございます、王女殿下……っ!!』

 ぶわっと涙と共に感情が溢れ出す。ずっとずっと、私には無いと思っていたそれが、確かに私の心の中にはあったのだ。
 守りたい。絶対に、この御方だけは守り抜かねばならない。こんなにも尊い御方の命が危ぶまれるなんて、そんな事があっていい筈が無い。だから私が、この命にかえても守り抜かねば──そう、強く心に思った。

『私が、傍におりますから……っ! 私が、貴女様を……絶対、絶対に……お守りします、から……!!』

 滝のように流れ出る涙。初めてだった、こんなにも泣いたのは。私は……それこそ今の王女殿下と変わりない歳の頃から全然泣かず喋らずな子供だったらしく、物心がついてからも泣いた記憶は数える程しかない。
 それなのに、私は今、人生で最も泣いていた。生きる意味を強く認識し、それが願いへと昇華されたからだった。
 王女殿下の騎士となり、王女殿下の剣として一生を懸け王女殿下をお守りする──それが私の生きる意味となり、大願となったのだ。
 王女殿下を強く憎む皇帝陛下より王女殿下をお守りする為にも、更に一秒でも早く強くならねば。
 元より月に一度は邸に帰るようにしていた。しかし王女殿下のお誕生日を経てからというもの、その月に一度の際に私は父より陽が昇るまで休まず剣を教えて貰っていた。
 絶対に強くならないと。早く強くならないと。そうでなければ、王女殿下をお守り出来ない。
 必死に、死にものぐるいで私は日々剣を振っていた。王女殿下がお眠りになった昼下がり、夜、朝、とにかく自由な時間は鍛錬に費やした。
 これから先も王女殿下のお傍で王女殿下をお守りする為に。ただその為だけに私は日々努力していた。……だがここで、最悪の事態に陥ったのだ。