フォーロイト帝国においても特殊な立場にある異端の存在、シャンパージュ伯爵家。これまでの数百年の歴史の中でも中立を保ち、どの派閥にも属する事のなかった家門。
 だがしかし、ついにシャンパージュ家が大きく動き出したのだ。それは何故か──アミレスが関わる事であったから。

 心身共に救われた思いのシャンパージュ伯爵とその妻、そしてその愛娘三名共がアミレス・ヘル・フォーロイトに強い感謝と恩を感じており、果てなき忠誠を誓った。
 これまで一度たりとも特定の皇族に関わろうとしなかったシャンパージュ伯爵家が、初めて特定の皇族に肩入れした。
 その事実がエリドルを憤慨させる理由の大部分を占めた。それを理解しているケイリオルは巧みに話を進める。エリドルと──彼にとって、都合のいい方向へと。

「これは、ようやくシャンパージュ伯爵家の力を皇室に取り込める絶好の機会なのです。これまで何人もの皇帝が挑戦し諦めざるを得なかったそれを、陛下が成し遂げる時が来たのです」
「シャンパージュを完全に支配する為にアレを利用すべきと言う事か。確かに一理ある…………しかし私には理解出来ん。シャンパージュが何故アレなぞの為に中立を捨てたのか、分かるかケイリオル」
「……私もまだ詳しい経緯は把握しておりませんが、昏睡状態だったシャンパージュ伯爵夫人を彼女が救ったようです。伯爵がこの件に箝口令を敷いていた為間違いないかと」
「伯爵夫人……あの原因不明の。国教会の大司教共でも不可能だった事を、アレが?」
「はい。それ以前より伯爵家と彼女の間では交流があり、貧民街の件もシャンパー商会がかなり密接に関わっているようでした」

 しかし伯爵夫人を治した方法までは依然として明らかになっておりません。とケイリオルは付け加えた。
 それを受け、エリドルはふむ……と頬杖に使っていた手を口元に当て思案顔を作る。確かにまだ苛立ちは抱えているものの、アミレスに突如生まれた利用価値から今後の使い道を考え始めたのだ。
 エリドルはアミレスを酷く嫌っていた。その為、基本的にはアミレスに関する報告も全て聞かない。そも彼女の事を考える事すら嫌うのだ。

 故に全てをケイリオルに一任していたのだが……この度、流石にエリドルにも報告せねばならない事柄が起きた為、ケイリオルも報告した。
 これはケイリオルにとっても賭けであった。帝国出発前にアミレスが危惧していた通り、エリドルが何らかの罰をアミレスに与えようとする可能性もある。
 だが同時に、この件を切っ掛けにエリドルがアミレスに強い利用価値を見い出せば──。

(──そう簡単には彼女も殺されない。明らかな自由意志を持つ彼女を私が庇い続ける事にも限界がありますから……どうにかして彼女が価値を証明出来るようにと考えていたが、幸運だな……まさかこんなにもおあつらえ向きな価値を彼女が示してくれるとは)