船の音に掻き消されるような小さな声で、私は自分の胸に問いかけた。
 しかし答えが返ってくる筈もない。私の脳で推測出来る答えとしては…………やはり、家族に愛される事なんだけど。
 いやいや絶対無理。あの父親と兄に愛されるとかとんでもなく難しい事でしょ。でもやはり、アミレスという少女が願うものはどんな結末を迎えようとそれ一つだけなのだろう。
 ──そもそも。六歳の時、皇族の社交界デビューと言われる程の大事な機会たる建国祭を病欠し、社交界はおろか表舞台に出る事を禁じられたアミレスは更に皇帝とフリードルに疎まれるようになる。
 皇帝からは本格的に避けられ、近寄る事も完全に禁止される。フリードルからも同様に近づくなと言われるようになるのだ。
 アミレスは本当に従順な子供だった。皇帝とフリードルに近づくなと言われてからは、見かけても遠くで礼をし、声をかける事を許されぬままただ二人の背中を見つめていた。
 向こうから声をかけられる事などまず無いし、アミレスは陰で愛して貰えるように努力し続けるしか無かったのだ。
 そんな人生を送っていて……十年ぶりとかにずっと会いたかった父親に呼び出され勅命を下されたら──例えどんな内容でも従うというもの。

 まぁ、その建国祭の時点で私がアミレスになって考え方がぐるりと変わったから、そんな結末は迎えないで済みそうだけど。
 はっきり言って私は皇帝とフリードルが嫌いだし、愛されたいとか全く思わない。あの二人の存在が最も私の命を脅かすものだと分かっているのだから当然だ。
 でもこの体は……あの時誓ったアミレスとして幸せになるという目標は、皇帝とフリードルからの愛が必須なのだ。ああもうなんて厄介な! 最高難易度なのよそれが!!
 もういっその事アミレスがヤンデレとかだったらなぁ……『お父様と兄様の死体とずっと一緒に!』とかそのタイプだったら迷わず殺せてたんだけど。

「はぁ…………何で殺せないんだろうな、あの二人を……」

 血よりも明るく赤い夕焼けを見上げ、嘆息をつく。
 私は皇帝が大好き(大嫌い)だ。私はフリードルが大好き(大嫌い)だ。アミレスを苦しめ弄んだあの男達を許した(許せな)い。お父様が好き(憎い)。兄様が好き(憎い)
 頭で色々と考えても、どれだけ『私』があの男達を強く憎もうとも、この体は──ずっと、皇帝とフリードルへの愛を叫び続ける。
 どれだけ、どれだけ皇帝とフリードルを殺したいと願っても。