暗い部屋だった。そこにはオセロマイト王国国王ランデルス・オセロマイトと王妃エリザリーナ・オセロマイトと王太子カリストロ・オセロマイトがいた。
 そしてその三人と対面するように立つは第二王子マクベスタ・オセロマイト。
 荘厳な雰囲気の中、彼等は家族として……王族として話していた。

「──その考えを変えるつもりは無いのだな」

 険しい面持ちのランデルスがマクベスタを一瞥する。
 マクベスタは真剣そのもの、といった瞳で真っ直ぐ自らの家族と向き合っていた。そして、マクベスタは深く首肯する。

「──オレはこれからも帝国に留まり、彼女の為にこの命を使うつもりです」

 それは彼が定めたこれからの人生そのもの。
 マクベスタの言葉からは並々ならぬ覚悟をひしひしと感じた。その為、ランデルスとカリストロはそれに異を唱える事が出来なかった。
 しかしこの時、エリザリーナがスっと立ち上がりゆっくりとマクベスタに歩み寄った。そして……。

「……マクベスタ。どうか、どうか……貴方が悔いの無い選択を出来るよう祈るわ」

 エリザリーナは優しくマクベスタを抱き締めた。久しく感じる事の無かった母の温もりに、マクベスタの頬が少しばかり緩む。

「……はい。母上」

 この時ばかりはただの子供らしく微笑みながら、マクベスタはエリザリーナを抱き締めた。いつの間にか母とほとんど背が変わらないぐらいまで成長していた己に驚きながらも、マクベスタは母の痩せた背中に手を回す。
 この家族は、とてもとても、仲睦まじかった──。


♢♢


 ほんの数日間という短い期間ではあったが、私達はオセロマイト王国を満喫していた。
 四月二十九日に、私達は帝国へと帰る。いやこの日だけは止めようよと……せめて一日ズラしましょう? と何度もマクベスタに訴えたのだが却下されてしまったからだ。
 マクベスタは語る。『一日でも早く帝国に戻りたいだろう?』と…………確かにずっとこちらにお世話になる訳にもいかないし、一応手紙は出したがそれでもハイラもきっと心配している事だろう。だから確かに少しでも早く帰るべきだとは思う、思うんだけどね?
 この日は駄目だ。少なくともマクベスタ、貴方だけはここにいなくてはならないでしょう! そう心から訴えたのに。
 結局二十九日の昼には帝国に帰る事になってしまった。
 え? どうしてそんなに二十九日にこだわるかって?
 そりゃあ勿論──マクベスタの誕生日だからだ。だってマクベスタはオセロマイトの王子なのよ? 誕生日に祝って貰えた事がほとんど無い私とは違い、マクベスタはかなり国民にも愛されている王子だ。そんなの国にいなきゃ駄目でしょう!?
 それなのにマクベスタは二十九日の昼に帰ると決定した。もしやあの男、自分の誕生日を忘れているのではないか……? マクベスタなら有り得るわね、自分の事となると本当に無頓着だもの。
 だが私は忘れていない。何なら誕生日プレゼントも用意してるんだから! まぁでもそれは帝国にあるので今手元に無い。じゃあどうやってプレゼントを渡すんだと。
 だが私はちゃーんと考えているのだ。そう、その方法とは!