「主ハ誰カニ恋ヲシタ瞬間、壊レテシマウ。ダカラ当方ニハ分カル……主ノ其レハ、マダ恋デハ無イ。主ガマダ壊レテイナイ事ガ、何ヨリノ証拠」

 ラフィリアがぎこちなく、されど言い淀む事はなく言告ぐ。
 壊れる、僕が? 恋をしただけで? ……全く訳が分からないな。確かに恋は人を変えると言うけれど、そんなにも僕は変わってしまうのか。
 どうせ誰かに恋をして壊れてしまうなら……僕は姫君に壊されたいな。初めての友達である姫君がいい。他の人間に壊されたくないな。

「……そうかい。確かに壊れている自覚はまだ無いからね、僕は恋をしていないのだろう」

 この気持ちが恋ではないと分かってしまい、残念だと伏し目で眉を寝かせる。
 僕がこれを認めた事により、ラフィリアは満足したのか面を戻して「任務、実行」と言って姿を消した。恐らく数時間もすればジスガランドにある教座大聖堂が何者かに襲撃されたと言う報告が上がる筈だ。
 あとはあの男が大人しく東にとんぼ返りする事を待つだけ。

「これ、恋じゃないのかぁ……」

 ゴンッと額から机に突っ伏して未練がましく呟いた。
 恋ではないと分かっても、姫君の事を考えると僕の心臓は早く熱く鼓動する。まだ恋では無いけれど、僕が姫君に大なり小なりの好意を抱いているのは確定だろう。
 そして姫君に信頼される程親しい仲のあの男に嫉妬しているのも確定だ。ああ、これが嫉妬か。
 あの男が気に食わない。彼はあくまでも僕を模倣したものに過ぎないのに、どうしてその元となった僕では駄目なのだろうか。
 姫君は僕の友達なのに、どうして──そう、僕は生まれて初めての胸の苦しみに苛まれていた。