「ラフィリア、ちょっとジスガランドの教座大聖堂を襲撃して来てくれないかな。勿論国教会の人間だとバレないようにね?」
「ハ?」
「流石に教座大聖堂が襲撃されたとあればあの男も東に帰るだろう? 僕としてはね、さっさと僕達の西側から出ていって欲しいんだ。特に姫君の側から消えて欲しいと思う。だって彼女は僕の友達であり、彼は僕の敵だ。僕は僕の友達を僕の敵から遠ざけ守らねばならない」
「……ハァ。当方、主命反抗不可」

 面越しでも分かるラフィリアの呆れ果てた顔。コテン、と項垂れつつラフィリアは嫌々のそりと立ち上がり、そして換装した。その全身を真っ黒の衣服で包み込み、更に顔につけた面をも黒いものへと変えていた。
 あれはラフィリアが偵察任務等の際に正体を隠す為の衣装。西側諸国の裏社会ではそれなりに存在を知られているようで、黒の亡霊だなんて通り名もあるらしい。
 まぁ、数十年間ずっとあの姿で暗躍していたのだから当然だ。得意の空間魔法で神出鬼没な事も亡霊と呼ばれる所以かもしれない。

「主側、離脱許可求」
「ああよろしくね。なんなら教皇をやっちゃってもいいよ、そうしたらあの男はきっと東に戻らざるを得ないから」
「……主、其、独占欲。否、恋心」
「これが恋じゃないって? 独占欲も恋から来るものでは無いのかい?」

 ラフィリアが珍しく僕の言葉を否定した。面の隙間から見える彼の蒼玉《ブルーサファイア》の宝石眼が無機質に僕を捉えている。
 そしてラフィリアは面を少しずらして口元だけを外界に晒す事により、己に課していた言語制限を限定的に解除した。

「──主ノ其レハ、人生初ノ友人ニ対スル唯ノ独占欲ト執着ニ過ギナイ。恋トハマタ違ウモノ」
「どうしてラフィリアがそう断言出来るんだ? 分からないだろう、僕のこの感情の正体が何かなんて」
「……其ノ問ニ解答スルナラバ、答エハ否。当方ハ主ノ恋物語ノ結末ヲ知ル。当方ガ作ラレタ時、神々ニヨッテ遥カ未来ノ結末ヲ記憶媒体《メモリ》ニ記サレタ為」
「僕の、恋の結末を知る? そんなの初耳──……」

 ラフィリアは嘘をつかない。そもそもそのような機能がラフィリアには無い。だからこれは真実だ。ラフィリアは本当に……僕の恋物語の結末を知っているのだろう。
 しかし神々も訳の分からない事をするなぁ……何でラフィリアに僕が恋をした場合の結末を教えるんだろう。相変わらず我等が神々の御心は分からないよ。