「まぁ確かに、私は女の子らしさとはかけ離れているものね。普通の女の子は手にマメを作る事もないでしょうし……」

 自分の手のひらを見つめながら呟く。幾つかマメが出来ていて、少し固くなっている。いつも外で特訓していた影響で肌も少し焼けている。
 毎日欠かさず筋トレと素振りをしているからか、私の腕は普通の令嬢に比べてゴツイ…………という訳でも無い。そりゃあ、少しはがっしりとしているのだけれど……元々アミレスが筋肉がつきにくいタイプだったようで、目に見えた筋肉はついてくれなかった。
 筋肉王女を目指している訳ではないから、別にいいんだけどね。
 肌が焼けていると言っても、当社比だから世間一般的にはまだまだ全然色白の部類だ。これはハイラさんが毎日丁寧に肌のケアをしてくれているからだろう。
 それでもやはり深窓の令嬢とかと比べると粗野な感じに見えてしまうらしく、社交界にて今や私は『野蛮王女』と呼ばれているらしい。……社交界に出た事なんて無いのにね。
 何せ皇帝に社交界に出るな、恥を晒すなって命令されてますから。
 じゃあ何でそんな噂を知ってるかって? 侍女達が話しているのを盗み聞いたからです。

「ボクはそんなアミィが好きだよ」

 私を慰めようと、猫シルフが肩に飛び乗って来ては肉球で頬を撫でてくれる。
 ありがとうと言いながら猫シルフの頭を撫でているとエンヴィーさんが、

「姫さんのそーゆー所、俺等みたいな戦う事しか考えてねぇ奴からすりゃ超魅力的なんすから、自分の魅力をもうちょっと自覚した方がいいっすよ?」

 歯を見せて笑いながら、頭をぐしゃぐしゃと掻き乱してきた。既に特訓の影響で髪は散々乱れているし、頭をぐしゃぐしゃにされた事は構わな……笑顔が眩しいなぁおい。
 エンヴィーさんは何だか、距離感が近所のお兄ちゃんって感じで……お陰様で私もかなり懐いてしまった自覚がある。

「ほら、マクベスタも何か言え」
「えっ…………まぁ、何だ、お前が自分らしいと思える生き方を出来るのなら、それでいいとオレは思う。周りの声なんて気にしなくていいさ」

 エンヴィーさんに突然話を振られたマクベスタは、ぎこちない笑みで伝えてくれた。マクベスタはそもそも人付き合いが苦手だと言っていた。それでも何とか、話の流れを乱さぬように言葉を捻り出してくれたんだろう。

「そうね。ありがとう、マクベスタ」

 笑ってお礼を告げるとマクベスタは照れ臭そうにそっぽを向いてしまった。その耳は少し赤く染まっていて、彼が本当に照れているのだと分かった。
 そんなマクベスタに、エンヴィーさんがニヤリと笑いながら、

「なぁに照れてんだァ青少年。若いねぇ、いいねぇこういうの。俺の知り合いが見たら飛び跳ねて喜びそうだ」

 と肩に腕を回して絡み始めた。マクベスタはそれを鬱陶しそうに離れさせようとするが、相手は精霊さんなのでビクともせず……その後もしばらくエンヴィーさんに絡まれ続けたマクベスタは、心無しか少しぐったりしていた。
 どうやら、彼にとっては特訓よりもエンヴィーさんのだる絡みの方がキツかったらしい。