「……もしもの時は、フォーロイト帝国と全面戦争でもしようかなぁ」

 それで姫君を苦しめるエリドル皇帝陛下とフリードル皇太子殿下をこの世界から消してしまおう。そうすれば彼女とてきっと喜んでくれる筈。
 確かにフォーロイト帝国の戦力は決して侮れないものだけど、それでも──僕の敵では無い。それなりに教義に反する事になるけれど、フォーロイト帝国をただ滅ぼすだけなら容易い事だ。
 彼女に求められて差し出した小指……姫君の小さくも逞しい小指が絡まっていたこの指は、どうしてか未だに熱がこもっているようだった。
 そんな小指を見つめ、僕は呟く。

「それかいっその事、姫君を拉致して……」
「不可能、精霊妨害確実」
「だよねぇ。じゃあやっぱりあの国と全面戦争を……」

 どうにかして姫君を国教会に……というか僕の側に置いておきたくて、色々と方法を考える。その途中でふと思い出したのだ。
 ──やけに姫君と仲が良さそうだった、あの男の事を。

「どうせやるなら、フォーロイト帝国の前にリンデア教から潰したいよね。あのリンデア教の切り札も気に食わないし……何で僕よりあの男の方が姫君と仲良さそうなの、僕の方が凄いのに!」
「……当然……」

 当然の事だろ。(※特別意訳)と呆れたようなため息をでかでかと吐くラフィリア。何が当然なの、とラフィリアを睨むと、ラフィリアはふいっと顔を背けた。
 じとーっとラフィリアを睨みつつ考える。
 あのリードとか名乗ってるらしい男……あの男の事を思い出して僕は腹を立てていた。
 リンデア教が数十年前から僕に対する切り札を用意していたのは知っていた。でもそれとあんな所でこんなに早く会うとは思ってなかったんだ。

 どうして東の人がこんな西側にいるのかな、早く東に帰って欲しい。そう何度も密かに下唇を噛み締めていた。
 彼、生意気にも僕が作ったオリジナルの魔法を真似していたようだし、何より姫君と仲が良さそうだ! 魔法の事は最悪どうでもいい。ただ姫君に信頼されているようなのは駄目だ。
 僕のプライドが許せない。他の誰かであったならまだ辛うじて気に食わないで済んだけれど、他ならぬあの男なら駄目だ。許せない。
 僕に対抗する為だけに用意されたリンデア教の切り札。そんな男が僕よりも姫君と仲がいいなんて許せない。
 どうにかして姫君からあの男を引き離さないと。