しかしこちらの視線に気づいたシュヴァルツはいつもの笑顔を作り部屋から出る。…………まさかオレより幼いシュヴァルツに背中を押されるなんてな。今更だが恥ずかしい。
 ふと壁にある鏡に目が留まる。我ながら酷い顔をしているものだ。

「うん、とりあえず顔を洗おう。汚れたし服も着替えるか……」

 こんな顔でアミレスの元に戻ってみろ、また心配をかけてしまう。オレのような罪人に彼女の心配など、あまりにも恐れ多い事だ。
 ……とは言いつつも、いざ心配されたらされたで喜ぶオレもいる事だろう。

「本当に救いようが無いな、オレと言う男は」

 吐き捨てるように呟きつつ雷の魔力を少し放つ。それは小さな落雷を伴い吐瀉物塗れの袋へと落ちる。
 ドンッ、と師匠が壁を殴った時と同じぐらいの音を立てて袋は雷に貫かれた。そして瞬く間に焦げて灰となる。
 当然だが床が少し汚れたし焦げたし壊れてしまった。だがまぁ、いいかこれぐらい。
 昔から部屋でよく素振りをしてた事もあり、オレの部屋にはいつでも顔や傷口を洗う為の蛇口がある。良かった、昔から部屋で素振りをしていて。
 そこで顔を洗い、服を脱いで着替える。クローゼットの中に一年前によく着ていた服があるのでそれを着た。
 上まできちんと釦を留め、ぐちゃぐちゃになっていた髪を適当にだが整える。これでひとまずは大丈夫か……。

「……とりあえずアミレスの元に戻り、心配をかけた事を謝ろう。これ以上心配かけないように何も無かったように振舞って…………」

 ぶつぶつと呟きながら部屋を出る。例え内容が何であれ、アミレスの事を考えているととても心が明るくなる。

「ああそうだ、師匠とシルフに更なる特訓を懇願しよう。父上にも言わないと……後少しだけではなくこれから先もずっと帝国に留まりたいと」

 アミレスが何度も言っていた。オレには才能があると。いつかあの氷結の貴公子──フリードル殿下を超えるぐらい強くなれると。
 正直、本当にそうなればいいなぐらいにしか思っていなかったのだが……今となっては超えなくてはならなくなった。
 絶対に彼を超える。フリードル殿下を超え、彼からアミレスを守らなくては。
 その為にも強くなる必要がある。前々から師匠に言われていた魔法と剣の兼用に挑戦しよう。だからシルフに魔法を教えて貰えないかと頼み込もう。
 別にオセロマイトが嫌いな訳では無い。寧ろ祖国は愛している。
 だが、彼女の為に一生を懸けると決めた以上ここにいては意味が無い。だからこそ帝国にい続ける事を許してもらわなくては。
 問題は帝国側だ。今のオレは滞在時期を定められた親善の使節。どうにかしてこれから先も帝国に滞在出来るようにしないとな。

「アミレス、話があるんだが──」

 パーティー会場の扉を開けて、オレは彼女の元へ向かった。
 突然の事にかなり心配してくれていたらしいアミレスに心配をかけて済まないと謝り、オレは思う。
 ……あぁ、本当に。好きだ。お前の全てが好きだ。愛しいお前の為ならば、オレはいくらでも──この身命を懸けられる。
 お前の為ならば、何処までも堕ちよう。それがきっと、オレにとっての幸せだから。

 もしも、願いが叶うなら……お前を想う事だけは──どうか、赦して欲しい。