「──永遠に告げる事を許されない想いを抱き続けるなんて、最悪な罰じゃないか」

 口元に自然に浮かぶ嘲笑。この心を受け入れたとして……彼女の側にいたならば、きっとこの想いは日々膨れ上がる事だろう。
 だが、オレにはそれを言葉にする事が許されない。オレに許されるのは、彼女に命を懸けるような真似をさせてしまった、彼女への贖罪だけだ。
 一生を賭けて、この身命を懸けて、贖い続けよう。
 それだけが──最愛の人を泣かせてしまったオレに、許される唯一の生き方だろう。

「…………あぁ……受け入れた途端、こんなにも体が軽くなるなんてな」

 ずっと拒否していたモノを、ずっと許せなかったモノを、ずっと気持ち悪いと忌避していたモノをいざ受け入れてしまうと。
 信じられないぐらいしっくり来てしまった。まるでオレの心が元々こうであったように。
 頭も体もこの心を吐き出そうとする事を止めた為か、先程までとは打って変わってとても軽くなっていた。だがしかし、対照的に心はかつてない程に重くなっていた。
 世界が変わるようだった。ずっとずっと彼女の事を考えてしまう。こんな状況でも、オレは彼女への想いを募らせていた。

「どう? 人が人にかける最高の呪いに侵された気分は」
「…………勿論最悪だ。この呪いを解く事も出来ないまま一生を過ごすのかと考えると……何と素晴らしい罰なのかと思うよ」
「あは、解けない呪いなんて大変そー」
「大変でも何でも……彼女に少しでも贖う事が出来るのなら、オレは手段を選ばない。例えそれでオレの心が壊れようと関係ない」
「おおー! すごい、覚悟決まってるね! いやぁ、背中押しに来てやった甲斐があった!」

 シュヴァルツがパチパチパチと大きく拍手する。暫く続いていた拍手がピタリと止むと、こちらを見るシュヴァルツが愉しげに、鋭く笑っていた。

「これからもおねぇちゃんの為に──精一杯その命を尽くしてね、マクベスタ」
「言われなくても、元よりそのつもりだ。オレの身命も未来も、最早オレのものでは無い。オレはアミレスの未来の為に全てを尽くす。それが、オレの贖罪だ」

 汚れていた口元を拭い、足に力を入れて立ち上がる。そして目を丸くするシュヴァルツに向け、覚悟のままにオレは宣言した。
 満足気に笑うシュヴァルツは軽々立ち上がり、

「応援してるよぅ、それじゃあぼくはこの辺りで! ばいばーい」

 と手を振りながら扉の方へと歩いていった。その不思議な背中を見つめていると。

「……最高に重い純愛だなぁ」

 何と言っているかは聞こえなかったが、シュヴァルツの横顔が歪に笑みを作り上げているように見えた。