──羨ましいな。
 気づけば私の心にそんな言葉が住み着いていた。沢山の愛情を与えてくれる親がいる事が羨ましいんだろう、この体は。
 ……久しぶりだな、アミレスの残滓に悩まされるのも。やっぱりどこまで行ってもこの体は愛を渇望する。それも、親の……家族の愛を。
 絶対に手に入れる事の出来ないものに手を伸ばし続けるなんて、何と虚しく憐れなのか。

 私にも王妃のような母親がいたならば──そんなたらればを空想しては、私は自分が惨めに感じてしまうのだ。
 時間にして三十分程、王妃とのお茶を楽しんだ私は、深く一礼して王妃の私室を後にした。
 王妃は本当にマクベスタの事を気にかけているのか、見送りの際にも「マクベスタの事をこれからもよろしくお願い致します」と頼み込んで来た。
 帝国にいる間はちゃんと守ってみせますよ! と宣言すると、王妃はふふっと笑い手を振って見送ってくれた。

「遅いぞアミレス。どれだけ我を待たせるつもりじゃ」
「ごめんねナトラ、皆もお待たせしてごめんなさい」

 部屋の前にはぶすーっと膨れた顔のナトラと皆がいた。いつの間にかマクベスタと師匠も増えている。
 そのマクベスタがおずおずと一歩前に踏み出して。

「母に何か変な事を言われなかったか? たまに突拍子も無い事を言いだす人なんだ、母は……」
「特には……これからもマクベスタをよろしくねーって言われたぐらいよ」
「そうか? なら良いのだが」

 本当は貴方についてどう思ってるかとか言われたけれど、わざわざ言う程の事でもないよね。面と向かって本人に言うのは気が引けるし。

「時にアミレス。この後の事なんだが……父からお前達に城を案内しろと言われたんだが、構わないか?」
「案内してくれるの?」
「あぁ、簡単にだが…………っと、その前にお前は食事が先か」
「そう言えば起きてから何も食べてないわ」

 時刻は十四時を過ぎた頃。昼過ぎまで寝ていた私は今ようやく朝兼昼ご飯を食べられる。中には私に合わせて何も食べずに待っていた人もいたので、皆で軽く食事をとる事になったのだ。