「……私は、生まれつきあまり体が丈夫では無いのです。特にここ数年は更に体が衰弱し、王宮から出た事はほんの数えられる程で……どうしてもアミレス王女とお話したかったのですが、城に行く事が叶わなかったのですわ」
「そうだったんですか…………」
「本当に、ありがとうございます。こうしてここまで来てくださって……」

 王妃の翠色の瞳にキラリと一筋の光が射す。それは重い雫となり彼女のドレスを濡らした。
 彼女が落ち着くまで私は静かに待つ事にした。王妃がその涙を拭うのを、紅茶を飲みながら待つ。じっと見つめるのも無礼かと思ったのだ。
 そして程なくして王妃は私に会いたかった理由というのを話してくれた。

「実は以前よりマクベスタからの手紙でアミレス王女の話をうかがっておりまして。あの子があれ程に特定の人物、それも女性の話をするのは初めてでしたので……本当にお会いしてみたかったのです」

 カチャリ、とカップを置いて王妃がふんわりと微笑む。
 え。そんなに私の話題出してるのかマクベスタ……まぁでも、ここ一年ほぼ毎日一緒に特訓してたものね。書く内容が私の事ばかりになっても無理はないわ。
 というか寧ろ申し訳ない……私がずっと周りをうろちょろしてたから書く内容が限られてしまったなんて。

「そこでお聞きしたいのです、アミレス王女。マクベスタの事をどう思っていらっしゃるのか……有り体に言えば、マクベスタの事は恋愛対象としていかがでしょうか!」
「ぶふぉっ?!!」

 ずいっと身を乗り出した王妃が口にしたのは、まさかの恋バナだった。それに驚いた私ははしたなくも紅茶を少し吹き出してしまった。
 突然の展開に少し噎せていると、王妃が「大丈夫ですかアミレス王女!?」とこちらを心配してきた。

「だ、大丈夫です……しかし王妃殿下、先程の問の意図がよく分からないのですが……?」

 息を整えながら王妃に問い返す。すると王妃はあらっ、と恥ずかしそうに口元に手を当てて、

「ごめんなさいまし、性急過ぎましたわ……今まで女性に欠片も興味を抱かなかったあの子についに春がと舞い上がってしまいましたの」

 恋バナを楽しむ淑女のように王妃は語る。彼女の見た目が若々しく見えるからか、親ほどの歳の人と話している感覚が全く無い。
 それにしてもマクベスタ、貴方今までどんだけ女の子と関わって来なかったのよ……特訓仲間でさえ親にそう認識されてしまうなんて。
 と、心の中でマクベスタを憐れみナチュラル失礼をかます。