「お初にお目にかかります。私《わたくし》はアミレス・ヘル・フォーロイト……エリザリーナ・オセロマイト王妃殿下の茶のお相手にお呼び頂けた事、心より光栄に思います」

 入室してすぐ一礼する。すると程なくして「顔をお上げになって」と穏やかな声が聞こえてきた。
 それに従いゆっくり顔を上げると、そこには……。

「──エリザリーナ・オセロマイトと申します。初めまして、アミレス・ヘル・フォーロイト王女。私も、貴女に会えて光栄ですわ」

 色素の薄い栗色の髪をした、とても儚げな美女がいた。王妃はゆっくりと椅子から立ち上がり、とても穏やかで麗しい笑みを浮かべていた。
 この方がマクベスタのお母さん……マクベスタと違い、とてもか弱そうに見受けられる。

「さぁ、お座りください。ずっと……ずっと、貴女とお話出来る日を楽しみにしておりました」
「……では失礼致します」

 王妃の向かいの席にゆっくりと腰かける。すると王妃が慣れた動作で紅茶を入れ、こちらに手渡してきた。……どうして侍女が一人も待機していないのか。
 疑問を抱えつつも私は紅茶を味わう。オセロマイト産の茶葉はとても味わい深くて好きなのだが、これは今まで飲んで来た中でも一二を争うぐらい私好みだ。

「……とても美味しいですね、こちらの紅茶」
「ありがとうございます。こちらはアルトゥールティーと言いまして、我が国自慢の特産品なのですよ」

 なるほどねアルトゥールティーか、覚えたわよ。また後でシャンパー商会で扱ってないか聞こう。もしあったら言い値で買おう。
 そんな欲まみれの私の言葉にも王妃は微笑んで親切に返してくれた。その言葉にも、態度にも、表情にも怪しい所など一つもなかった。
 一人で、なんて言われたからそれなりに身構えていたのだけど。どうやら危険な目には遭わないで済みそうだ。
 安心してアルトゥールティーを堪能していると、王妃がボソリと呟いた。

「……なんと言えば良いのか分かりませんわ。貴女は本当に、心の根が澄んだ御方なのでしょうね」

 まるで何かに引け目を感じているような、そんな表情だった。
 急に何の話? と内心で困惑していると。

「……本当に申し訳ございません。本来であれば私からアミレス王女をお訪ねすべき所を……私の体が思うように動かないあまり、こうしてアミレス王女にこのような所まで御足労いただくなんて。なのにそれを責める事なく私の入れた紅茶まで味わってくださるだなんて……何とお詫び、お礼申し上げればよいのか」

 王妃は美しい顔に影を落とした。彼女が頭を下げると、その栗色の長髪が絹の糸のようにサラリと流れ落ちる。
 突然王妃に頭を下げられた私は当然テンパっていた。ぎょっとしながら、

「頭を上げてください!」

 王妃に向けてそう言うと、彼女はおずおずと顔を上げた。
 どうしてそんな風に謝るのかと王妃に問うた所、王妃は自分の胸の辺りにそっと触れながら語り始めた。