「わははははは! 楽しい、楽しいぞアミレス!!」

 バシャバシャと大きく音を立て、花びらを次々蹴飛ばし湯船を泳ぐナトラ。
 楽しそうで何よりだけど、水しぶきがこちらまで飛んでくる。流石は竜の脚力……。

「ちょっとナトラさん、はしたないですよ!」
「む? 我、はしたないとかよく分からんのじゃ!」

 メイシアの忠告もむなしく、ナトラは「わーっははははは!」と上機嫌に泳ぎ続けていた。…………王妃には後でちゃんと謝ろう。
 暫く泳いでいたナトラが飽きるまで花風呂を満喫し、体にタオルを巻いて脱衣所に行くと、そこには待ってましたと言わんばかりに侍女達が立っていた。
 その手には様々な手入れの道具。その背後には様々なドレス。まるでハンターのような面持ちの侍女達はこちらににじり寄ってきて。

「聖女様、伯爵代理様、ナトラ様。御髪を拭きましょう!」
「御体の手入れを!」
「爪先もピカピカにしましょう!」
「本日お召になられるドレスをお決めくださいませ!」
「それに合う宝石を選びましょう!」
「お化粧はいかがなさいますか?」

 彼女達の気迫は凄まじく、あれよこれよという間に私達は一連の着替えを終えてしまった。まぁナトラが触られたくないと拒否した事により、ナトラの着替えは私がやったのだが。
 別にパーティーに出る訳でもない日常の服なので宝石も身に着けず、極力シンプルなものを選ばせて貰った。
 しかし何故こんなにも念入りに着飾るのだろう……と悩んでいた所で侍女が鼻息荒く教えてくれた。

「この後、聖女様は王妃様とのお茶の予定がありますから!」
「………………お茶ですか?」
「はい。王妃様直々に、聖女様のご予定が空き次第是非にと!」
「………………なるほどぉ」

 何やら知らぬ間に王妃様とのお茶の予定を入れられたらしい。別にいいんだけども、前もって言ってくれても良かったんじゃないかな。
 突然の事に心臓バクバクよ、もう。
 しかもそのお茶、私一人でと言う指定が入ってるそうな。何だかちょっと怖いわね。
 まぁ別にそんなヤバい事は起こらないだろうとタカをくくり、脱衣所を出る。部屋の前で待ってた保護者達に向けて「ちょっと王妃様の所行ってくるね」と行先を告げ、侍女達に案内してもらう。
 場所は王宮にある王妃の私室。その部屋の前で、中には私一人でと侍女からもう一度言われてナトラとイリオーデとディオがそれに食ってかかった。
 まぁ王妃の私室なら仕方ないでしょうと皆を説得し、私はいざ王妃の部屋に入室した。