メイシアはたいへん可愛らしく頬を赤らめはにかんだ。
 その時、ディオ達の顔が(溺死……!?)と言いたげに青ざめていて……それに気づいた私は「皆は未遂だから溺れさせないわよ〜」とちゃんと伝えておいた。
 そんな大人達には部屋の前で待っておいてもらう事にして、私達はついに花風呂なる浴場を目の当たりにする事となる。

 広さとしてはお高めのホテルの大浴場ぐらいであり、その名の通り色とりどりの花と花びらがその湯に浮かんでいる。
 メイシアが王妃様が〜と言っていたが、これはなんとオセロマイト王国王妃専用の浴場で、このように客人に解放される事はまず無いらしい。
 その為、この特別の機会に心躍らせる侍女達は喜色満面で私達をここまで案内してくれたようだ。
 そんなどこか幻想的な雰囲気すらある浴場にて、私はナトラとメイシアと共に体の洗いっこをしていた。

「アミレス、くすぐったいのじゃ」
「ふふっ。もうちょっと我慢してね」
「アミレス様の御体を洗う栄誉にあずかる日が来るなんて……っ!」

 私がナトラの体を洗い、メイシアが私の体を洗う。キャッキャキャッキャと騒ぎながら洗いっこをする私達。侍女達には脱衣所で待って貰っているので、広い浴場には私達三人の声だけが響く。
 先程、彼女達は侍女の仕事として私達の入浴を手伝うと提案して来た。しかし私はこれでも一国の王女であり、ナトラは私以外の人に触れられるのを嫌がる。そしてメイシアには義手という問題があった。
 その為、手伝いはいらないと申し出は断らせていただいたのだ。

「メイシア、本当に義手は大丈夫なの?」
「はい。元々水を弾くようになっているので問題ありません……ただアミレス様の御体を両手で洗う事が出来ず、時間がかかってしまうのが申し訳なくて……」

 メイシアはしゅんと俯いた。確かにメイシアは義手を体側に下ろしていて、私の体を洗うのは彼女の左手のみであった。
 その事に気を落とすメイシアを励まそうと私は必死に口を動かした。

「いいのよ。それにほら、その分メイシアと長い間くっついていられるじゃない?」
「アミレス様ぁ……っ」

 あれこれ変態っぽくない? 私自身を溺死させた方がいいかしら?? なんて気づきにそっと蓋をする。
 まるで恋する乙女のような顔でときめいているメイシアに向け、ナトラが「急にどうしたのじゃこやつ」と呟く。それは私にも分からないわ。
 変態発言に引かれた訳ではないみたいだから別にいいか、と私は無責任に結論づけた。
 その後、メイシアの小さくて細い体をガラス細工に触れるように慎重に洗った。傷がつかないよう、傷つけてしまわないようにと集中して取り組んだ。
 そうして三人で仲良く洗いっこを終え、ようやく湯船に浸かる。
 花びらや花を押し退けて体全体で湯船を感じる。とても温かく、いい香りのする湯で……「ぁ〜〜っ」と気の抜けた声が漏れてしまった。
 気持ちい。今まで普通の風呂にしか入って来なかったけど、元日本人的にはやっぱりこういう大浴場とかが落ち着くのよね。
 貧民街に大衆浴場が出来たら私も行ってみよう。やっぱり視察は大事だしね、うんうん。