「まぁいいか。そっすね、俺もシルフさんも本来の姿が別にあります。シルフさんは制約で……俺とかは本来の姿じゃあこっちでの影響が強すぎるって事で、別の姿をしてるんすよ」

 説明を聞きながらさりげなく師匠から距離を取ってみる。ずっとあの距離は心臓に悪い。適切な距離を保つ事に成功した結果、私はとりあえず一安心。一度胸を撫で下ろした。

「中でもシルフさんの顔は誰が見ても綺麗って思うモンですからねぇ…………何せ精霊界で一番美しいヒトなんで、あのヒトは」
「そんなに綺麗なの?」
「妖精女王に三千年言い寄られるぐらいには美しいっすね」
「よくわかんないけどやばそう……」

 妖精女王……って妖精を束ねるおとぎ話に出てくる世界一美しい妖精の事よね。そんなのに言い寄られるって……シルフそんなに美形なの?
 と強い興味を引かれた私は、すぐ側で眠る猫を抱き抱えて優しく撫でていた。これはどうやらシルフでありシルフでないようだが……実はこの猫がシルフの本体ではないと分かり、納得した私がいる。
 前にあった猫シルフの紅茶事件の説明がようやくつく。本当は人型であったのなら、ああして紅茶を飲む事も頷ける。
 ……だからこそいつかシルフ本人と会ってみたいと思う。制約とやらで無理らしいけれど……いつか、猫じゃなくて人の姿をしたシルフと会えたらいいなぁ。

「む……起きたのなら我も起こせ、アミレスよ。我は少しでも多くお前と同じ時間を共有したいのじゃ……」
「あ、ナトラおはよう。ごめんね、気持ちよさそうに寝てたから…………起こすのも偲びなくて」

 ナトラが目を擦りながら上体を起こす。そんなナトラに向けて「やっと起きたのか、緑の竜」と呆れ顔でこぼす師匠。
 それを華麗にスルーして、ナトラは目をパチパチと瞬かせた。