「……ん……ぁ、いまなんじ……?」

 瞼を開き、霞む視界で自分の手を捉える。大きくあくびをしながら布団を押し退けて体を起こし、窓から射し込む温かい光を見て眩しさから瞼を擦る。

「今は昼過ぎぐらいっすよー、姫さん」
「ししょう……? おはよ……」
「はは、まだまだ眠たいみたいっすねぇ。俺達のお姫様は」

 ベッドの傍で椅子に座り、足を組んで上機嫌にはにかむ師匠がそこにはいた。あまりにも笑顔が眩しくて、私は目を細めていた。
 ようやく視界が鮮明になって来たかと思えば、私のすぐ隣で体を丸めて眠るナトラとシルフがいた。まだ起きる気配のないシルフの頭を撫でながら、私は思い出したように師匠に感謝する。

「そうだ、師匠。手紙ちゃんと届けてくれたんだよね……ありがとうございます。予想とは違う人が来たけど、でも助かったので……本当にありがとう」
「そりゃ良かった。姫さんの役に立てて光栄です」

 ぺこりと頭を下げると、師匠はそう言いながらおもむろに立ち上がった。そして机と長椅子《ソファ》の方に歩いてゆき、何らかの衣類を手に戻って来た。
 ギシッと音を立てて師匠はベッドに腰を下ろす。そしてその衣類を私に手渡して来て。リボンとフリルが沢山ついた、たいへん可愛らしい服であった。

「それ、緑の竜用にここの人間が用意した服らしいんすよ。俺達が渡してもそいつは怒るだろうし、姫さんから渡してやってくださいな」
「ナトラ用に…………なんとありがたい……」

 確かに子供用の服で、私が着るには少し小さい。これは師匠の言う通りナトラ用の服なのだろう。
 ナトラはあの白いワンピースに私が着ていたローブだけだったので……こうしてちゃんとした服を用意して貰えるととても助かる。
 横で眠るナトラの可愛い寝顔を見て、私はふっと小さく笑った。ナトラはとっても可愛いからこの服も似合うんだろうなぁ……。早く見たいな、でも起こしちゃうのは申し訳ないしな。
 ナトラのマシュマロほっぺをぷにぷに押して癒されていたのだが……私の視界の端に、師匠のキラキラ顔が映り込み続けている。
 なんかめっちゃ見られてる。いや何その満面の笑み。

「……何か私の顔についてますかね?」
「ん? どうしたんすか急に」

 いやどうしたんすかはこっちのセリフなのよ。師匠は一体どういう意図で私の事をじっと見つめてるんですかね。

「いや、その……何でずっとこっちを見てるのかなって……」

 恐る恐る目を逸らしながら尋ねると、師匠はこれまた随分と爽やかな笑顔で答えた。