「……だから半分正解半分不正解っつったんだよ。これでお前の望む答えになったか、緑の竜」
「……そうじゃな。おかげであの言葉にも合点がいったのじゃ」

 合点? と首を傾げるエンヴィーをちらりと一瞥して、ナトラは続けた。

「──死なないでよかった、死ぬかと思った、怖かった……そうアミレスが赤子のように泣きながら言うておったのじゃ。最初は我を見て恐怖のあまり口にした言葉かと思ったのじゃが……お前達の話を聞き思い返せば、あれは本心から死を恐れていた言葉だった可能性が高い」

 ナトラがそう話し終えた瞬間。エンヴィーが張り詰めた面持ちでその両肩を強く掴み問い詰めた。

「ッ、それ本当か?! 本当に、姫さんが泣きながらそう言ったのか!!?」
「ああそうじゃ、我はこの目でしかと見た。呪いを振り撒く瀕死の竜の前に震えながら立ち、我を救わんと奇想天外な事をやってのけた勇気ある人間が…死ぬ事が怖いと当たり前の事で赤子のように泣く姿を」
「…………クソッ……!!」

 エンヴィーはフラフラと立ち上がり、怒りのままに壁を握り拳で叩く。するとその壁は少しばかり陥没し、亀裂が入った。
 アミレス・ヘル・フォーロイトという人物の明らかな矛盾。それに気づいた誰もが感情の荒波に飲み込まれ、溺れゆく。
 少女の願いは誰もが願うような平凡なもの。しかしその少女にとっては最難関とでも呼べる願いだった。

「おい精霊、何故アミレスの親を殺さぬ。それを殺してしまえば、アミレスの言う未来の不安は取り除けるじゃろう」
「…………出来る訳ないだろ。出来るならとっくにやってる。出来ないから今もこうして地団駄を踏んでばかりなんだよ」

 ナトラは鋭い眼光をシルフに向け、ギザギザの牙を剥き出しにする。

「アミレスが苦しむ様を指くわえて黙って見ておくだけか!」
「ッだからお前達がいるんだろ! 人間界の事に干渉出来ないボク達じゃなく、人間界に生きるお前達が!! あの子を守ってくれよ、あの子を救ってくれよ! ただ幸せを願うあの子を幸せにしてくれよ!!」

 フーッ、と息を荒くしてシルフは叫んだ。
 シルフは──精霊はこの世界にあまり干渉してはならない。制約のもとそれは許されないのだ。
 だからこそ。この中で最も長くアミレスの傍にいたシルフは……何度も何度も奥歯を噛み締め、何も出来ない事に酷く歯痒い思いをしていたのである。