体感二十分程が経った頃には、地図作成も二枚目に取り掛かっていた。この家は、何かの宮殿か? と思ってしまうぐらい、広大でややこしい建物だった。
 途中で入り組んだ通路を発見したのだが、今はまだその時では無いと判断し、また後日、機会があれば攻略しようと決めた。
 私としては、本がある場所に行って情報を集めたいのだが、いかんせんどの部屋も鍵がかかっているので本の有無を確かめる事すら出来ない。
 この幼女の部屋にあった本はマナーや語学の本で、歴史書などは無さそうだったのだ。……そう言えば、どうして私はあの本の内容が分かったのかしら。確かに違う言語だったのに……この体が理解しているからとか? 便利なものね、異世界転生。

「……それにしても誰もいないなぁ」

 人と出会いたくない気持ちと誰かと出くわしたい気持ちがぶつかり合い、気づけばそんな事を呟いていた。
 誰かから答えが返ってくるはずも無いのに……そう、思っていた。

「外でお祭りをやっているからじゃないかな。隣の城には随分と人がいるみたいだけど……」
「っ?!」

 頭上から突如声が降ってきて、心臓が飛び出てしまいそうな程驚く。慌てて声のした方を向くと、そこにはホタルみたいなぼんやりと光る明るいものがふわふわと浮いていて。
 突然の事にカタカタと顎が震える。すると、その光がふよふよと漂いながら、

「あー……もしかして怖がらせちゃった? ごめんね、急に声をかけたらそりゃあ驚くよね」

 そうやって謝ってきた。この光、一体何なのだろう。どうして光から声が聞こえるんだ……?
 何とか深呼吸を繰り返し、鼓動を落ち着かせる。そしてその光に向けて、尋ねる。

「どちら様……ですか?」
「ボクかい? ボクは──精霊だよ」

 光はそう答えた。その言葉に、私の体がピクリと反応する。
 精霊……ファンタジー世界ではお決まりの存在。それがここに居るという事は……つまり、この世界はファンタジー世界だ。もしかしたら魔法等もあるのかもしれない。
 もし魔法があるのなら……頑張って極めたりしたいなぁ。剣でもいい。
 異世界に転生したから魔法を極めるなんてとっても夢のある話じゃない。あぁ、やりたい事も出来てしまった。これからがとても楽しみだ!