「アミレス王女殿下! 無事に戻られたようで本当に良かった……!」
「多大なるご迷惑をおかけした事、ここに深くお詫び申し上げますわ。オセロマイト王」

 ここは謁見の間ではなくあの時の貴賓室。とんでもない精神的負荷を負いながらも私はこの件の報告の為、オセロマイト王の元を訪ねた。
 念の為にとミカリアにも共に来てもらった。呼んでないけど皆も付いてきた。どうやら、少しでも目を離すと何しでかすか分からないから私から目を離したくないらしい。
 オセロマイト王は私の帰還を喜んでくれた。そして私の謝罪にも「貴女様がこうして無事にお戻り下さった事が何よりだ」と返して来た。
 そして草死病《そうしびょう》の話……の前に、まずはミカリアからオセロマイト王に話があるとかで、一旦場を譲ってあげる事にした。

「この度は我が国教会の大司教が大変失礼な対応をしてしまった事、聖人ミカリア・ディア・ラ・セイレーンの名において謝罪します」
「良いのだ、確かに大司教殿の言い分も確かであった……」

 しかめっ面のオセロマイト王と瞳を伏せ謝罪するミカリア。口では仕方ないと言いつつも、やはりオセロマイト王も悔しい思いをしていたのだろう。

「彼の者は教義に反して救いの手を差し伸べなかった。彼の者が要請を受けた時点でこちらに来ていたならば、被害はもっと抑えられた可能性もあります。ですのでやはりこれは国教会の責任です」
「……それでも聖人殿が来てくださった事もあり、我が国は救われた。これ以上はもう何も言えまい」

 ……ああそうか、ミカリアは部下の尻拭いに来たのか。だからこうしてオセロマイト王に頭を下げている。
 その事もあってオセロマイト王も困惑しているようだけど。そりゃあ相手は聖人だもんね、無理もないわ。
 そうやって私がボーッと物思いに耽っている間に二人の話し合いは終わったらしく、最後に固い握手をしていた。
 次は私の番ね。とオセロマイト王にニコリ微笑みかける。これは圧をかけているのである──今からちょっとやらかすけど見逃してくれよな、という旨の圧だ。

「……大丈夫よ、ナトラ。あなたは私が守るから」
「……お前が我を?」

 不思議そうに眉を顰め小首を傾げるナトラの頭を撫でる。さっきまでナトラに気づく余裕のなかった皆が徐々にその存在を疑い始めていた。誰あいつ? みたいにヒソヒソ話しながらナトラを見ている。

「──ではちょっと失礼。満ち満ちよ、深海結界《しんかいけっかい》」

 露骨に笑顔を浮かべ、ちょっとお洒落に指パッチンをする。私の指パッチンを起点にまるで波紋が広がるかのように魔力の波がこの部屋に行き渡り、やがて満ちる。
 この空間は擬似的な深海……外界からの音も何もかもを通さぬ密室となったのだ。この屋内限定の結界魔法、深海結界《しんかいけっかい》の効果でね。
 私が予備動作無しに結界を張った事にオセロマイト王は驚愕したようだったが、すぐにこれの理由を察し、真剣な面持ちをこちらに向けて来る。