……は? なんですか、あの屑共は礼儀作法すらままならない愚者なのですか? それとも四歳の王女殿下相手に優位に立っていると優越感に浸る馬鹿なのですか?
 あー……久方ぶりに怒りを覚えました。
 決めました。王女殿下を舐め腐った屑共は全員皇宮から追い出します。社会的に抹殺します。王女殿下の侍女として、私はあの屑をきちんと処理致します。
 そう、これからどうやってあの屑共を廃棄するか考えを巡らせていた所、王女殿下が顔を少し赤くしながらくいっと私のスカートの裾を引っ張って。

「……その、あなたのおなまえは、なんですか?」
「私のですか?」

 そう、失礼にも聞き返すと王女殿下はこくりと頷いた。
 ……昨日の今日で急展開過ぎて、まだ偽名を考えられてないんですが、どうしましょうか。

「私には、王女殿下にお伝え出来る名前が無いのです。申し訳ございません」

 膝をつき深く頭を下げてお詫び申し上げる。すると王女殿下はとても悲しそうな表情をお作りになられてしまった。……こんな事なら適当な名前を名乗るべきでしたね。
 すると王女殿下が私の両手を握って、

「それじゃあっ、わたしが、おなまえをつけてもいいですか……?」

 大きくて丸い、綺麗な寒色の瞳を揺らして言いました。……驚きました。まさかこんな事を言われるとは。

「…………勿論でございます。王女殿下より我が名を賜る事が出来るなど、我が一生の誉にて」

 王女殿下より名を賜る者など、後にも先にも私だけなのではないでしょうか。そう考えると……ちょっぴり嬉しいですね、特別な感じがして。
 そして王女殿下は熟考なされた後、ついに私へと名を下賜してくださった──。