「出発」
「ま、ままま待ってくださいちょっとあのせめて何処に行くかだけでも!!」

 私の言葉は全て無視され、ラフィリアは黙々と魔法を発動しようとする。
 そんなラフィリアを見てナトラが小さく舌打ちし、

「殺すか? 殺すかアミレスよ。こやつ殺してもよいのじゃぞ」

 と提案して来た。国教会との全面戦争待ったナシなので、その提案は全力で拒否した。
 なんてやり取りをしているうちに魔法は発動する。やはり身に覚えのある眩い光に包まれ、次に視界が開けた時には──私は、ラ・フレーシャの一角に佇んでいた。

「……何でラ・フレーシャに…………」
「主、命令。氷王女発見次第、王都連行。主連絡」

 私の疑問にラフィリアが簡単に答えた。
 何と、このラフィリアの行動はミカリアによるものだったらしい……ちょっと待って、今なんか連絡とか言わなかった? なんでだろうとても嫌な予感がする。

「──ああっ、ようやくお会い出来ましたね姫君!」

 今度は上空から。その声につられて上を向くと……空から、天使のごとき微笑みをたたえた青年……ミカリア・ディア・ラ・セイレーンが落ちて来た。
 そしてなんと、ナトラが飛び出してミカリアに拳を向けてしまった。人類最強と名高いその男に。

「ふんッ」
「おっと、こちらのお嬢さん……は一体何者かな。上位種、いやそれ以上の魔物…………」

 ナトラの拳を軽々受け止め冷静に分析を行うミカリア。思うように体が動かないのか、もどかしそうに「チッ」と舌打ちをするナトラ。
 ナトラが追撃に打って出ようとした時、私は「ナトラッ!」と叫んだ。驚いた顔でこちらを見たナトラを私は諭す。

「ナトラ、大丈夫だから。この人達は悪い人では……」
「……じゃがそやつ等、どちらもただの人間ではなかろう。それにこれはお前とて予想外の事なのじゃろ? こやつ等の目的が計り知れぬ以上、さっさとぶん殴った方がよい」
「それはそうだけど…………でも手を出すのは駄目、あなたが危険に晒されるから」
「……ふん、我はどうなっても知らないんじゃからな」

 ナトラはムスッと頬を膨らませてそっぽを向いた。ナトラはきっと、私を守ろうとしたからミカリアに向かって行ったのよね……それなのに申し訳ない事をした。
 だが私達がもしミカリアと争う事になったとして、勝てる見込みはまず無い。相手は人類最強の聖人だ……ナトラが万全の状態ならまだしも、瀕死から回復したばかりの今では勝率はゼロに等しい。
 それ以前に利が全くない。寧ろ損ばかりだ。