その後暫くナトラは喜びの舞を踊り続けていた。私はそれを見守りつつ、体力と魔力の回復を待つ。
 ある程度魔力と体力が回復した後、これでもう地下大洞窟とはおさらばだぜ! と立ち上がった瞬間。ナトラが私の服の裾を掴み、こちらを見上げて言ったのだ。

「…………どこかに行ってしまうのか?」

 その寂しげな面持ちと声音に、心臓がキュッと締め付けられる思いだった。
 だが私はラ・フレーシャに戻らねばなるまい。この間にもたくさんの心配と迷惑をかけているだろうから……少しでも早く帰らなければならないのだ。
 しかし、ナトラを一人置いて行くのも……とどっちつかずな私はある一手を繰り出した。

「私と一緒に来る?」
「……何?」
「街での暮らしだから基本的にはその姿でいてもらう事になるし、窮屈だろうけど……それでも大丈夫なら。私は、ナトラとこれからも一緒にいたいな」
「〜〜〜っ?!」

 しゃがみ込んでナトラに目線の高さを合わせ、その手を握りお願いした。
 するとナトラの顔が真っ赤な苺のようになって……暫く口をパクパクしながら視線を右往左往させたかと思えば、

「……お前がそこまで言うのなら……我も暫し付き合ってやるのじゃ」

 と少し尖った耳まで赤く染めて手を握り返してくれた。これからもよろしくね、と改めて挨拶して私達は二人で手を繋いだまま歩き始めた。
 ナトラは見てて肌寒そうな格好だったので、羽織っていたローブをなんかいい感じに体に巻いてあげた。
 まぁ、本人は「我竜だからこんなの不要じゃぞ?」と言っていたのだが。こればかりは気分の問題なので……。
 そして行きに使った魔法陣をもう一度使って瞬間転移を行い、地下大洞窟を出る。
 その際に看板を見せようと思っていたのだが、あった筈の場所に看板は無く綺麗さっぱり姿を消していたのだ。それ故、白の竜からのメッセージであろう看板を見せてあげる事は出来なかった。

 数時間ぶりに出た地上は、行きとは大違いでとても空気が澄んでいて心地よかった…………がしかし。行きと同じ道を通った事により、大量の死体をいちいち避けて歩く羽目になったのだ。
 だがこれ以外の道を知らないのだし、仕方ないと思う。
 まぁ、ナトラが数百年ぶりの外だとかで何だかとても楽しそうだし……いっか。
 しかしはしゃぎ過ぎたのかナトラが途中で顔から転んでしまった。ナトラ曰く、久しぶりの人間体だからじゃ! との事。
 何度も転ばれては気が気で無いので途中から私が抱き抱えた状態で歩く事に。ナトラは不自然に見た目よりもずっと軽かったので、私でも軽々抱っこ出来てしまったのだ。
 そのまま暫く進み、森を抜けるとそこにはブレイドがいた。町に戻っててと言ったのに森の入口でずっと待ってたようだ。
 ブレイドは私に気づくと「ヒヒンッ!」と駆け寄って来たが、途中で慌てて緊急停止していた。その視線の先にはナトラがいる。
 ブレイドはとても賢い馬だから、本能でナトラの正体を察知したのかもしれない。それで警戒してるとか。