「……これってもしかして空間魔法? じゃあ看板にあった空を越えし災いって……これを使えばどこかに転移させられるのかしら」

 屈んでしばらく見聞した結果、この魔法陣は瞬間転移の類の魔法陣であろうと結論づける事が出来た。
 更にあの看板……この魔法陣を使うように誘導しているようにしか思えない。人間の心理的に、アレだけ言われてしまえば寧ろ使おうと思ってしまう。
 つまりこれは使わせようとしているのだ。しかもあんな露骨に怪しい入口にしてまで。
 誰が何を思ってここまで誘導しているのか私には分からないが…………ここまで誘導されているのだ、使ってやろうじゃあないか。
 罠の可能性の方が高いのだが……もうなるようになれだ。もし危険な目に遭ったのならその時はその時。
 私はこの魔法陣と看板を用意した何者かの計り知れない思惑に賭けよう。やっぱり人生は思い切りが大事だもの!

「いざ、瞬間転移よ!」

 魔法陣の上に立ち、魔力を流し込む。この魔法陣はほぼ発動直前の段階で固定されていたので、後は発動する為の燃料たる魔力さえあれば……空間魔法を扱えない人間でもこの魔法陣を使用出来るというカラクリだ。
 魔法陣が光り輝き、瞼をギュッと閉じる。次に瞳を開いた時には──全く別の場所にいた。
 さっきの空間よりも狭い場所。ふと横を見るとまた古びた看板があって、『ここまで来てくれたあなたにお願いがあります。どうかあの子をよろしくお願いします』とそこには書かれていた。
 この看板の人が何をしたくてこんな手の込んだ事をしているのか分からないが、とにかく先を進もう。転移先の空間から続く細い道を歩いていく。
 ……しかし頭に引っかかるな、『あの子をよろしくお願いします』って……誰の事を指しているのだろう。

「──ッ!!」

 広い道に出た瞬間。身の毛もよだつ恐怖と悪寒に襲われた。
 全身が石のように固まる。ビリビリと体中に響く威圧感が私に呼吸を許さない。
 それでも意地で呼吸する。程なくして体が慣れてきたのか呼吸は楽になった。それでも体の震えは収まらないし、心臓も忙しなく鼓動している。
 そのままゆっくり一歩ずつ進んで行くと……とても広い、某東のドーム程の地下空間に出た。
 そこで私は目を見開いた。開いた口は塞がらない。驚愕のあまり言葉を失ったのだ。
 ──天井にある不思議な水晶から溢れる光に照らされる、美しい暗緑色の鱗を持つ一頭の竜。力なく横たわり眠っているように窺える。
 その体の下より生えた無数のツタが、竜を縛り付けるかのように……あるいは地から吸い上げた栄養を竜に送るかのように、緑の竜の大きな体に巻きついている。
 そこには確かに、幻想の王たる竜がいた。