「サベイランスちゃんの動作確認はバッチリ。ぶっつけ本番で不安だったけど、これからもこれで外とコンタクトは取れると……ただなぁ、音声が一方通行なのがなぁ……まだ改善の余地が……」
(本当に昔からカイル様はこうだ。好きな事にのめり込んではとんでもない物をお作りになられる)

 ぶつぶつと呟くカイルを暖かい目で見守るコーラル。
 そう……カイルは幼少期より、魔導具作りに強くのめり込んでいた。
 乙女ゲームのキービジュアルでセンターを務めるような攻略対象であり、ヒロインであるミシェルと最も運命的な結末を迎える男。
 更にスパダリ枠のチートオブチートと呼ばれるに相応しい魔力と才能に恵まれたカイルは……魔導学に強く魔導兵器《アーティファクト》作りにおいては一目置かれるハミルディーヒ王国が第四王子、と言う確かな土壌で育まれた。
 加えて七歳の時に本来は訪れる筈もないカイルを変える契機が訪れ、それはもう魔導具作り──特に魔導兵器《アーティファクト》の開発に没頭するようになったのだ。
 そんなカイルの誇る最高傑作が、魔導兵器《アーティファクト》としての一面もあるこの星間探索型魔導監視装置もといサベイランスちゃんなのだ。
 今現在カイルの中にある全ての知識と技術を用いた広域兵器であり…………最大捕捉距離はこの大陸半分程と異常に広く、最高火力はどんな建物や結界であろうとも関係無しに消滅させられる程。
 更には座標指定を行う事により特定の場所への様々なものの転送も可能とする。
 ……このようにただ大きいだけの薄い箱が、それ程の危険性を孕むなど誰も考えもしない。それを理解しているカイルは敢えてこの見た目にした。そう、敢えてである。
 決して、何かを意識したとかそう言う訳ではない。

「……とにかく。カイル様が天才であると陛下や兄殿下達に知られてはならないのですから、言動にはお気をつけて下さいよ」
「わかってるってー」

 コーラルが腕を組みながら発した小言を、カイルは新たな魔導具の設計図を描きながら聞き流した。
 ゲームにおけるカイル・ディ・ハミルはその圧倒的な実力を意固地になった兄王子達に認められずにいたが……どう言う訳かこのカイルは自ら実力の全てを隠していた。認められようともしなかった。
 カイルは信頼のおけるコーラルと言う存在以外の誰にも…………生みの親にさえも、幼い頃よりただの一度も己の実力を見せなかった。まるで、見せた所で意味が無いと悟っていたかのように。