そしてついに初出勤当日。今朝届いたばかりの侍女の服は何故か私の体にとてもぴったりで、謎の恐怖を覚えました。
 城の一角に集められた侍女の姿は五十人をゆうに超えており、なんとこれら全てが私と同じ新人侍女なのだとか。そう言えば、四年程前……皇后様が天へと旅立たれた際に皇宮の侍女が一斉解雇にあったと聞きます。もしかすると、これは数年前の埋め合わせなのかもしれません。
 そしてこの侍女群はこれより所属を決められるらしいです。城の雑務を担当する城班、王子殿下のお世話等皇宮の雑務を担当する皇宮一班、そして王女殿下のお世話等皇宮の雑務を担当する皇宮二班に振り分けられるそうで……私は皇宮二班に所属する事となりました。
 皇宮二班の侍女長はとても真面目そうな方でした……しかし、どうにも王女殿下を下に見ている節を言動の端々から感じられました。
 しかし彼女は上司です。そんな態度も私が気にするような事では無いのです。
 皇宮に辿り着くと、着いて早々にとある御方からのお出迎えがあった。

「──みなさん、きょうは来てくださりありがとうございます」

 それは私がこれから仕える主──アミレス・ヘル・フォーロイト王女殿下、その御方だったのです。
 その小さな体からは予想も出来ない程優雅で美しいお辞儀をして、王女殿下は私達使用人を出迎えたのです。……確か王女殿下は今年で四歳の筈ですが、たった四つでこれ程完璧な所作を出来ると言うのですか……? 私は六歳ぐらいでようやく、といった所だったのですが……。
 王女殿下というお立場でありながら、使用人にまで気を配り礼節を弁えるその心構えに……一応元貴族令嬢の私は驚愕し、そして、何様のつもりだと言われてしまいそうですが感心してしまいました。
 差別や格差が根強く残るこの貴族社会にて、上に立つ者が下の者に優しくする事は偽善などと受け取られ、へりくだり過ぎると下に見られてしまう事が多い中、こうして誰にでも礼節を弁えるのは非常に難しい事。
 それを王女殿下はあの幼さで……いや、あの幼さだからこそ純粋に行っているのでしょう。
 しかし愚かな他の新人侍女達はそんな王女殿下を見て、クスクスと意地の悪い笑い声を微かにこぼしています。……恐らくこれは、王女殿下の態度だけでなく王女殿下にまつわるとある噂も関係しているのでしょう。

 ──皇帝陛下と王子殿下が、王女殿下を嫌っていらっしゃる。

 と言う、なんとも不遜かつ不敬な噂。だが……この様子からするとあれは本当なのかもしれません。
 既に数年前より働いている侍女達は王女殿下の態度を嘲笑うように、露骨に鼻で笑ったりしているようでした。
 あぁ、なんと醜く無様な姿。汚らわしい者達。
 どれだけ不遜な態度でいようとも王女殿下を嫌う皇帝陛下と王子殿下が罰しに来る事など無いから、好き勝手振る舞いつつ高給だけはいただくと……そういう事なのですね。